恋っていうか、変

泣き顔が印象的、最初はこんな感想だった。
胸がドキドキして、どうして泣いているのかひどく気になった。
どうしてコノ人は泣いているんだろう。悲しいんですか?どこか痛いんですか?
気が付けばその人の腕を引いていた。
どうして、

「初めまして 俺、「草間野分」って言います」

グイグイと引っ張って前田さん達の場所に連れて行く。
その人を前田さんたちに任せて少し離れた場所でロケットの打ち上げの準備をする。
ちらりと向こうの様子を窺うとアッチは既に酒盛り会場と化していた。
ビールってそんなにおいしいものかな?
前に『これも大人になる為の修行だ!』って飲まされたけど、苦いだけで俺は苦手だ。


日が暮れて前田さん達と別れてあの人を送るために後ろをついていく。
前田さん達はそれぞれタクシーを拾って帰ったけど、この人は歩いて帰るらしい。
そんなに飲んでないとはいえ、アルコール入ってるんだからさすがに一人で帰すのは心配。
というのは建前……いや、心配なのは本当だけど、けど本音はもっとこの人のことを知りたくなったから。
あと、このドキドキの原因が知りたかったから。
こんなこと人生で初めてで、自分でどうしたらいいのか分からなくて。
頭のいいT大生ならどうしてこんな気持ちになるのか俺に教えてくれるかもしれない、そう思った。

「断る カテキョなら他あたれ!」
「上條さんがいいです」

あなたに教えてほしい。この気持ちの名前を。
ドキドキとうるさいこの胸はどうすれば治まるんだろう。
ほら、こうやって腕を取るだけでもっと酷くなる。こんな苦しいのは初めてだ。
 
バタンと思いっきり閉められた扉を前にしょんぼりと項垂れると鍵が差しっぱなしにしてあるのが見えた。
いくらなんでも迂闊すぎます、上條さん。それとも遠まわしに「来てもいいよ」ってことですか?
鍵をそっと抜いてポケットにしまいこんだ。さて、どうしよう。
とりあえず二日酔いに効くしじみの味噌汁でも作りに行ってみようか。たぶん叩き出されるけど。

この胸の高鳴りは恋?きっと恋。(いや、ただの変質者)



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