【凌統】


すごく、朝陽がきれいだった。きっと夜通し地下なんかで酒を飲んでいたせいだ。雑居ビルの隙間から降り注ぐ、なんてことはない朝陽なのに、それが感動的な風景にさえ見えるのだから朝というものは恐ろしい。たとえば、物珍しい異国の景色が判断を狂わせるみたいに、私はなんだか切ない気分になる。朝陽だけじゃない、アルコールも、それにもしかしたら、ついさっきまで一緒にいた凌統のせいもあるかも知れない。凌統はやけに私の手を握ってきたし、やけに私の腰を抱き寄せたりしてきた。だからか、私は三ヶ月ほど前に別れた恋人のことを思い出してしまう。頭に浮かぶのは別れたあの人のことばかり。あの人がいればと、そう思いながら私は一人で自宅のドアを開ける。結局、だから私は切ない。ベッドに寝転んで、あの人の腕や胸を思い出せば、笑い上戸なはずなのに涙だって流せてしまう。私はあの人に会いたい。

枕元に投げ出した携帯電話が揺れる。メールの着信音。…ああ。そうだ。帰り際に凌統から言われていたのだ。「家に着いたらメールをして」と。画面を開けば、それはやはりと言うべきか凌統からで、そこにあったのは『無事に着いた?』という文面。私は、メールが遅れたことを軽く謝って、それから、朝陽に酔ってたの、と返した。

凌統からの返信はすぐに来た。無事に着いたなら良かった、また食事にでも行こう、おやすみ。そんなさっぱりとした内容だった。そしてそれに私もおやすみと返すと、そこでやり取りは終わった。それ以上、携帯電話は鳴らなかった。…ああ、ひどい話。ただでさえ泣けるくらい切ない気分だったのに、それに上乗せされるように、虚しいくらい私は寂しくなる。俺が好きだとか言ってもどうせ信じないんでしょ?なんて凌統は言って、そうよ、だって私たちは、ただ少しじゃれ合ったり、言葉遊びみたいな会話をしてみたり、そうやって表面的な恋愛気分を楽しんでいるだけだもの。そういうのが楽しいだけ。別に凌統は本気で私のことを好きなわけじゃないんだろうし、私が好きなのだって、あの人なの。凌統じゃない。

だけど、この朝陽の中で、もしも凌統が恋愛気分を引きずったままでいてくれてたなら。

ねえ。そうしたら、私はあなたを好きになれたかも知れなかったのに。


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メッセージとかありますか?

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