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以下は短い話になります。お楽しみいただければ幸いです。


その嘘、本当?

「子供の時間」の続編です。4月から直人は中学一年生、直也は小学校二年生。
 日曜日、ぼくは、お兄ちゃんの部屋で遊んでいました。
 お兄ちゃんは今年の春から中学生です。パパの本が積まれていた部屋を整理してもらって一人で使っています。
「それでね。ヒロシ君がね」
 言葉に出してしまってから、ぼくは口を押さえました。
「……ふうん」
 お兄ちゃんは面白くない顔です。
 ヒロシ君の話をするとお兄ちゃんは機嫌が悪くなります。だけど、学校のことを聞いてきたのはお兄ちゃんなのです。同じクラスのヒロシ君とは、いつも一緒に遊んでいます。だから、学校での出来事を話すと自然とヒロシ君の名前も出てきてしまうのです。
 それなのにどうして機嫌を損ねるのでしょうか。わからないお兄ちゃんです。
「あ、そうだ」
 ぼくはヒロシ君が話していたことを思い出しました。
 今日は、エイプリルフールといって嘘を吐いても怒られない日なのです。
「何だ?」
「うん。あのね」
 嘘を吐いてわからず屋のお兄ちゃんを困らせてやろうと思いました。
「ぼく。お兄ちゃんに嘘吐いてるんだよ。いっぱいだよ!」
「そうなんだ? どんな嘘?」
 お兄ちゃんは、ぼくを見ています。どんな嘘か考えていなかったぼくは困ってしまいました。
「こ、この間、ショートケーキの苺が好きって言ったでしょ? あれは嘘なの」
「へー」
「それから、アンパンマンも嫌い」
「そうなのか?」
 あんまり驚いていないみたいです。もっとすごい嘘を言わないといけません。
「あとね、あとね」
「うん」
「お兄ちゃんのことも嫌いなの」
 言い過ぎたと思いました。でも、お兄ちゃんは、やっぱり驚いていません。ぼくに嫌われても平気なのでしょうか。
「そうなんだ。だったら俺も正直に言うよ」
 ニコニコしながらお兄ちゃんは口を開きました。
「俺も直也のことが嫌いなんだ」
「え? 嘘?」
「嘘じゃないよ。世界中で一番くらいに大嫌い。嫌いで嫌いで仕方ないぜ」
 ぼくはビックリしました。
「今まで我慢してたんだ。直也は弟だし、悪いと思ってさ。仕方ないから仲良くしてたんだよ。気付かなかった?」
「……そんなの。嘘」
 どうしたのでしょう。お兄ちゃんの顔がぼんやりしてよく見えません。
「な、直也! 何で泣くんだよ?」
 目の前がぼんやりしてしまったのは泣いていたからだったのでした。
「……だって、お兄ちゃん。……嫌いって。……言ったから」
「バカだな。エイプリルフールの嘘だよ。直也のことが嫌いなわけないだろ?」
 頭を撫でてくれます。
「でも、今のも嘘かも。嘘の反対は本当だから。反対の嫌いってこと? でも、そうしたら前の嫌いも反対? ……もうわかんない!」
 ぼくは、また泣きだしてしまいました。
「困ったな」
 お兄ちゃんは、頭を掻いています。
「直也。あれ見てごらん」
 ベッドの傍にある目覚まし時計を指差していました。
「時間わかる?」
「……十二時。ちょっと過ぎてる?」
「そうだよ。だからエイプリルフールは、もうお終い。嘘を吐いてもいいのは午前中までなんだ」
 顔を擦ってぼくはお兄ちゃんを見上げます。
「そうなの?」
「うん。これから俺が言うことは嘘じゃないよ」
 ぼくはホッとしました。
「お兄ちゃん。ごめんなさい。さっきのは違うの。お兄ちゃんが大好き。もしお兄ちゃんがぼくのことを嫌いでも好き」
「俺もさっきあんなこと言ってごめん。直也こと好きだよ」
 嬉しくてぼくは、お兄ちゃんに抱きつきます。
『二人とも。ごはんができたわよ!』
 台所からママの声がしました。
「ほら。顔を拭いて、ちゃんと鼻もかめよ。母さんがビックリするぞ」
「うん」
 ぼくは、優しいお兄ちゃんが大好きです。ショートケーキの苺とアンパンマンは、その次くらいに好きでした。
 もう嘘なんてこりごりです。



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