Thanks For Clap

ありがとうございました!

ささやかながら、お礼小説をご用意しました。現在1種類のみです。
『聖なる夜に、そして奇跡の夜に』というクリスマス話のアフター小話になります。
時間差を考えると、けっこうな高齢カップル誕生か…!?
いやはや、それもおいしいかもしれません。
そして、やっぱりネロダンです。下へスクロールしてお進みください。

陽がまた昇る世界で

珈琲の芳しい香りが部屋に漂いはじめた。
メインストリートから外れた閑静な住宅街の中に、その一軒家は建っていた。こじんまりとした作りで、ちまちまとした改修で手を加えられた、あたたかみのある家だった。
家の中の家具や調度品は長い年月を経て落ち着いた色合いを醸しだし、すでにそこになくてはならないような一体感を生み出していた。
「ブラックでいいんだろう、相変わらず」
そう言ってダンテの前に差し出されたカップとソーサーは、長年大切に扱われてきたと分かる品物で、可憐な花柄が描かれていた。
「へえ、よく俺の好みを覚えているじゃないか」
そう言ってニヤリと笑い、カップに口をつけた。向かいの席に腰掛けたネロも自分の珈琲とミルクと砂糖壺を置き、角砂糖をひとかけカップの中へ沈みこませた。軽くかき混ぜて一口飲む。いつもと変わらない味にほっとする。そして目の前の男が変わらないことにも。
「……彼女は?」
壁や暖炉の上に飾られた女性の写真を眺めながら、ダンテが尋ねた。その言葉にネロは首を振った。
「2年前に、病であっさり先に逝かれてしまった。生来病気なんてしたことはなかったのに、かかってしまえばあっという間だったよ」
「そうか、それは残念だったな……」
この家には彼女との想い出が溢れすぎていて、亡くなってすぐの頃は家にいるのすらいたたまれなくなり、当て所もなく辺りを彷徨って心を落ち着ける必要があった。最近になってようやく、心の平穏が取り戻せ始めていた。
「……よく俺がここにいると分かったんだな」
そう言われたダンテは、やや曖昧な頷きを返した。
「そうだな……勘っていうもんだろうな」
そう言ってしばらく、家の中をまじまじと眺めていた。
そんなダンテの横顔をネロはじっと見つめる。やはりずいぶん離れていたせいだろう、彼の雰囲気が少し変わったような気がした。しかし年を取った彼は決して損なわれることなく、むしろ男の魅力がますます増しているようで、ネロは久しぶりに胸の高鳴りを覚えた。
「……っくそ、これじゃあ進歩してねーよ、俺……」
「ん? なんか言ったか、坊や」
思わず大きくなった独語に、ダンテが振り返った。その瞳にはやさしい、慈しむような色合いが浮かんでいる。以前の彼にはあまり見られないものだ。ネロの胸が苦しくなる。その、氷点下の青空のようなアイスブルー。変わらない色。
「あんた、あんまり変わってないな」
「そうか? それは坊やにも言えると思うぜ」
「……俺のこと坊やって言うの、よしてくれよ。もう俺が何歳になったと思う?」
「そうだな、もうすっかり育っちまって……まさか背まで越されるとは思わなかった」
ふっと笑った、ダンテの笑顔。昔はからかわれてばっかりで、純粋な彼の笑顔を見ることは少なかったように思う。こうして改めて見ると……。
「ああっ、くそっ……!」
急に頭をがしがし掻き出したネロを、ダンテは不審な目で見つめた。
「なんだ? どうしたっていうんだ、さっきから?」
きょとんととぼけた顔に、ネロはかっとなって言ってやった。
「あんたは相変わらずだな! 肝心なことにまったく気づかない」
「なんだよ、急に」
「俺は、……っくそ、言わせんな、恥ずかしい」
「だから、どうしたんだよ、ネロ」
「だから、その……さっきも言っただろ、ダンテを愛してるって……だから、その……あんたを見ているとやりたくなっちまったんだよ……!」
「は?」
急に言われたダンテは驚いて目の前の、すっかり青年を通り越して、りっぱな男へと育ったネロへと目を向ける。
彼の身体を見ていると、離れていた月日があまりに長かったことが分かる。骨格や筋肉も自分よりも大きく、逞しく、力強く彼を形作っていた。甘さの残っていた容貌は鋭さが増して、隙のない印象を与えた。
ネロも自分と同じ、過酷な道を歩んできたのだろう。あの頃の彼の面影はといえば、兄を彷彿とさせるその真っ青な瞳だけだ。しかしこのあたたみのある家を見れば分かるように、彼女と暮らした幸せな日々が、その想い出たちが決して彼を孤独にはさせなかった。それが分かっただけでも、ダンテにとってはじゅうぶんだった。
すこし話をしたら、また別れようと思っていた。ネロはもうひとりでやっていけるだけの力は持ち合わせているのだ。今さら自分がでしゃばって、彼の道を踏み荒らすこともないと思っていたのに……。
それなのに、目の前の男は目を獣のように光らせ、情欲を隠そうともしない。そして匂い立たんばかりの、色気。頭がくらくらしそうだった。
「……まったく、やりたいやりたいばっか言って、相変わらずおまえは坊やだぜ」
「なんだって……!?」
ため息ひとつ吐かれて言われた言葉に、ネロはむすっとした顔をした。その顔は変わらないなと思いながら、席を立ち上がると、その歪めた唇に軽く口づけた。
「……っ!」
触れた唇はすぐに離れた。ふたりともさっきまで外にいたせいか唇は乾燥していたが、触れあったところから伝わるぬくもりだけで、情欲を煽るには事足りる。
「ンンッ……」
すぐにネロはダンテの身体をそっと抱きしめて、ゆっくりと味わうように口づけをした。熱いため息が、どちらともなく漏れ出す。
ついばむような口づけは、やがて深く深く、奪い合うようなものへと変わっていく。手で相手の身体をまさぐりあい、服を脱ぐのももどかしく、ベッドへと縺れこむ。
やがて部屋中に、しっとりとしたため息と、甘い囁き声が満ちていく。
乱れたシーツの上、ふたりの両手はしっかりと握りしめられたまま。



やがて雪もやみ、夜空には星が瞬き、ゆっくりと夜が明けていく。
そして誰の上にも平等に昇る朝陽が、世界を照らし出すだろう。






クリスマス話のちょこっとしたアフターストーリー。
ネロとダンテが揃うと、聖なる夜も、性なる夜に(ゲフンゴフン
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