数回のコール音の後、思っていたより早く電話に出た彼の声色は、やはり寝起きのそれで。



「夜中にごめん…あのさ、」





その姿、その仕草の全てに目を奪われる。

それは空想の中でさえも。

貴方を想うだけで、貴方を目にするだけで、貴方とすれ違うだけで、貴方とほんの少しの言葉を交わすだけで、世界の全てを奪われる。

世界が貴方だけになる。










(……やっぱ、だめだ…)



苦悩に眉を寄せ、深く息を吐く。



全然集中できない……。



声が微かに聞こえるだけで、姿が視界に入るだけで、意識の全てを持って行かれてしまう。
もう今の作業を続けるのは諦めて彼の方を見る。

彼は何やら打ち合わせ中のようで、咲人と話し込んでいる。



いいなぁ、咲人……。



そこまで考えて思わず机に突っ伏す。


何考えてんの、俺。
咲人は仕事の話してるだけだし、なんでうらやましいとか思わなきゃなんないの!
最近ちょっと気になるだけで、別にあいつのことなんか、何とも思ってないし……。


………。



(俺、もしかして何か貸してたっけ?)



動揺の理由をそんな風に無理にこじつけてみても、当然納得できるはずもなく。

悶々とする気持ちを抱えたまま、伏せた腕からほんの少し視線を上げると、咲人に笑いかけてる彼が見えた。

「……っ!」



慌てて目を伏せ、熱を帯びた顔を腕に押し当てる。

一人でこんなに取り乱しているのが馬鹿らしくて、まるで自分が自分ではないようで、そのまま暫く顔を上げることができなかった。



あー相手が、俺だったらいいのに……。



もう否定するのも面倒で、そう思うのを認めたくはなかったが、とにかく胸の動悸を治めるために深く呼吸をした。





_______帰宅後。

ベットに寝転がりながら考える。
寂しい、だなんて滅多に思わなかったのに、何故か最近は彼の姿が隣にないことがただただ物足りなくて、意味もなく空中に手を伸ばした。



(……今頃あいつ、何してんのかな。…もう寝てるかな?)



時刻は深夜。そうあってもおかしくはない。


ふと仕事場やツアーの移動中、うたた寝をしている彼の表情を思い出す。

ピアスに彩られた双眸を閉じてしまえば、驚くほど彼の寝顔は穏やかだ。まるで遊び疲れて眠ったやんちゃな子供のようで、口元との違和感に少し微笑ましくなってしまう。



そんな思慕に胸がうずいて、意味もなく寝返りを打つ。



(あー……)



逢いたい


逢いたい


逢いたい


「……っ…」



込み上げる切なさに堪えられなくて、枕に顔を伏せる。



(だー!!!!!もうだめ限界!!こんなの漢の中の漢じゃない!!!!!!)




勢いに任せて携帯電話を掴み呼び出した

















アドレス帳、マ行。





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