そっと鳴いた猫に
遠い日に聞いた君の声が蘇った


■熱くって 儚い■



言われた言葉に、己は夢でも見ているのだろうかと
望美は額に手を当てて眉を潜めた。

耳の奥を通り過ぎ、消えていった言葉にただ嬉しさと悲しさが入り乱れる。

聞きたくないけれど
まるで問い掛けるように整理の出来ていない心情を浮き彫りにした瞳を向ければ
目の前の彼は唇の端を吊り上げてもう一度笑いかける。

大きな手が差し出される。

「おいで、望美。オレと一緒にここに残ってくれ」

「ヒノエくん」

咎めるように少し強い声を発すると
途端に何処かバツが悪そうに肩を竦めて敷かれた布団の上に大きく寝転がる。

幾ら熊野別当としてこの地を統治している身といえど
まだ十代の青年になりきらない身だ。

「…今の言葉…聞かなかったことにしておくね。ほら、冷えちゃうよ」

「望美」

掛け布団を掛けようとしていた望美の腕を掴み、顔を近づけ
逃げようとしない望美の柔らかな唇の先端に口付け
軽く啄ばむように唇を動かす。

あと何度この唇を合わせることが出来るのだろうか。

こうして会うのは最後だというのに

それはヒノエも望美も理解していたのに
触れ合わせればその分だけ切なさに似た恋しさが広がる。

最後の逢瀬だと自分に言い聞かせたのに
どうしてこんなにも相手への想いが膨らんでしまう。

望美は逃れるように顔を少し背けると掛け布団を頭からヒノエへと被せ
そのまま背を向けた。

「ぶっ…!姫君は随分と強情だね」

顔に掛けられた布団を退かし
いつものからかいにも似た言葉を向けられた小さな背にかける。

その背が微かに震えていることなど、見なくても手に取るように分かる。
最後の戦いが終われば、二人は離れ離れ。

そう、これは最初から分かっていた。
お互いにお互いの心へ一歩距離を近づけた時から
いつかこんな日が来ると。

それぞれに、それぞれの世界での生活がある。

「…オレの神子姫は涙さえ我慢して拭わせてくれないのかい?」

ゆっくりと褥から体を起こせば細い肩に両手を当ててから、己の腕の中へと閉じ込めその頬に自分の頬を重ねる。


―嗚呼、やっぱり濡れている…―


「望美、オレの傍にいてくれ…。望美…」














そんな声で呼ばないで
決心が狂ってしまう。
…私も、傍にいたいのに…。





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