01 そう思うと決まって現れるアンタ





「アラ……、ン……」

 何で。
 また、泣いてるときに。
 思えば一番最初に会った時も私は泣いていた気がする。

「どうしたんだよ、ディアナ」

 その優しい声で、私を包んで、お兄ちゃんのようにぽんぽん、と頭を叩いてくれる。
 与えられた感触が柔らかくて、安心して、情けないことにまた涙がこぼれていく。
 ――彼は敵なのに。
 敵だけど、敵じゃない。
 あぁ、ややこしいけれど、それが今の私達の関係なんだ。
 彼は知らない。
 でも、あの人は絶対に私の事をしっている。

「何にもしらないのに」

 恨めしげな声が漏れれば、うっ、と彼は詰まって、そうだけどさぁ、なんて情けなさそうに唇をちょっとだけ尖らせていた。
 子供みたい。
 事実、私よりは”年下”なんだけれど。

「知らないけどさ」

「うん」

「ディアナが悲しいって思ってること位は分かる」

 ぎゅっと抱きしめてくれた力は案外強くて。
 抜けれる程度の力だったけれど、何故だか抜け出せれなかった。

「アラン?」

「泣きたいなら泣いたほうがいいよ」

「……泣かない」

「ほーら、我慢するだろ、お前。フェルも、ボリスもお出かけ中。誰もいないぞ?」

「……アランがいるじゃない」

「俺は、ほら。壁だと思って」

 幼子にするように、彼は私の背中をあやすように叩くのだ。
 そうしたら、彼の思惑通りなのか、何だか涙腺が緩んできて、ぼろぼろと涙が零れ落ちてきた。
 彼の胸に頭を押し付けて、シャツを掴む。

「……ぁ……」

 血にまみれた同胞の姿。
 残された銃弾の跡。
 私に出来たのは送ることだけ。
 あの感触は、一生忘れてやらない。
 彼の、最期のありがとうございます、っていう言葉だって。
 巡りなさいよ、と多少涙声で言った私に、はっきりと頷いてくれたあの顔だって。

「……ギリィ……っ」

「存分に泣いとけ」

 彼の声が後押しになって、私は獣の咆哮みたいな声を上げた。
 私の姿を軽蔑する態度をみせることなく、彼は静かに私の背中をなでていてくれた。


 ――泣きたかったのかもしれない。






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