「構ってください」
行儀良くちょこんと座って、満面の笑顔で彼女は言った。
その性格に反して、彼女――千姫は小さい。長い黒髪を滑らせる肩は華奢だ。
だというのに、可憐という形容詞が似合わないのは何故だろう。
「…は?」
「だから、構ってください」
「構えって言われても…どうすれば良いんだよ」
「………」
少し考えるような素振りをしてから、不意に千姫は目を輝かせてぽむ、と手を打った。
そのあまりにキラキラとした視線に、嫌な予感がしたのは、これはもうある意味千姫の人徳だろうか。
「あ、」
「ストップ。変なこと言うなよ頼むから」
「まだ何も言ってません」
「千姫が目輝かせてるときは、大抵変なこと考えた時だろ」
「決めつけは良くないですよ?」
「決めつけじゃなくて事実だろーが」
そう長い付き合いとも言えないが、燐から見ても千姫は変な奴だった。
大人びた見た目に反した、奇抜で奇妙な言動と行動。時折見せる、妙に子供っぽい仕草。
それを集約したのが、次に彼女が口にした言葉かもしれない。
「んー…じゃあ、頭を撫でてください」
「は? 頭?」
「はい。頭です。こう、大人が子供に良い子良い子、ってやるような感じですね」
「そんなんで良いのか?」
にこにこしながら頷くので、要望通りに燐は千姫の頭を撫でてやる。
気分的にはクロを撫でてやっているのとあまり差はないのだが、撫でられている当人は嬉しそうだ。
あまりにも嬉しそうに微笑っているから、思わず、燐は苦笑する。
「…こんなんで嬉しいのか?」
「はい、嬉しいですよ」
「ふぅん…そういうもんかね」
不意に、大人しく撫でられていた千姫が、膝を立てて身を乗り出す。
その対角線上にいた燐に、彼女は勢いよく抱きついた。
当然、その勢いのままに二人は床に倒れこむ羽目になる。
「うわっ!? ちょ、千姫!?」
「燐!」
「なんだよ!?」
「大好きです!」
「……」
満面の笑顔で当たり前のように告げられた、ストレートな好意。
一瞬唖然としてまじまじと相手を見つめてから、燐は笑った。
「…知ってるよ、ばーか」
まるで飼い主にじゃれつく子犬みたいだな、と。
無邪気に微笑う千姫の髪に、燐は軽く口づけた。
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