子猫ちゃん(チカダテ)


 気がつくと隣にいる。
 構って欲しいのかと思って手を出すと、
「しつこい!」
 と手を払われる。
 じゃぁ、放って置くかと構わないでいると……、やっぱり隣にいる。

「よう、子猫ちゃん」
 にやりと笑った元親が政宗に手を振った。
 元親は一日のほとんどを造船場で過ごすのだが、いつの間にか忙しいと言っていたはずの政宗もここに来ている。
「…誰が子猫ちゃんだぁ?」
「そりゃ、俺の子猫ちゃんて言やぁ一人しかいないだろう?」
 知らない者が聞けば震え上がるような政宗の声に、元親悪びれる様子も無い。
「おら、抱っこしてやるからこっちに来いよ」
 命知らずな言葉を吐きながら、元親が作りかけの甲板から手を差し出した。
「てめぇ…俺を誰だと思ってやがる」
 梯子の掛かっていない艦の胴を政宗が身軽に登って行く。
「誰って、…そりゃ、俺のすうぃーとはーとって奴だろ?」
 張りかけの胴を登っていた政宗が、元親の思いがけない言葉に足を踏み外した。
「ぅおっ!」
 慌てた元親が駆け寄って政宗の腕を掴んだ。
 それほどの偉丈夫とも思えない元親だが、政宗を掴んだ腕に力を込めると、甲板の上に引き上げた。
 足を踏み外した無様な格好を見られたせいか、…それとも元親の言葉のせいか、政宗の左目の眦が僅かに赤い。
「…そんな顔すんなよ。ぎゅってしてやるから」
 まだ中途半端に板の張られた甲板を、元親が政宗の手を引いて櫓の中に連れて行った。
「…何でquarter deckから出来上がってんだ?」
 元親に手を引かれるままに櫓に入った政宗が訝しそうに元親を見ると、
「そりゃ、俺の子猫ちゃんが恥ずかしがりだからだろーが」
 床に腰を下ろした元親が腕を広げた。
「おら」
「……how stupid!…」
 一瞬、元親を蹴るように上げられた政宗の脚だが、舞を舞うように回っただけで、その身は元親の膝の上に落ち着いた。
「ほら、ぎゅってしろよ」
 どすんと背を元親の胸に押し当てて、政宗がふんぞり返る。

 気がつくと隣にいる。
 気がつくと膝の上に抱いている。
 気がつくと……。
 いつでも、どこでも目で追ってしまっているのは自分の方だ。
 隣にいなければつまらない。
 隣にいなければ心配になる。
「…ず〜っと、俺の腕ん中にいりゃいいのにな…」
 言ってみても無駄な事は分かっている。元親の恋した相手は竜なのだから、子猫の振りをしてくれているが、元親が抱いているのは竜なのだ。
「…ずっとでいいじゃねーか」
 振り返った政宗の目は笑っている。
 だが、これは子猫の微笑み。
 脂下がれば爪が待っている。





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