【春からの手紙】


「お前ら~本日のサッチ様特製デザートだ!有難く喰えよ~」
「待ってたよい!」
「おぉ、来た来た!」
「美味そうだなァ~」
「いつもすまねェな、サッチ!」

甲板で寛ぐ隊長たちの元へと軽い足取りで近付くと、
大皿にてんこ盛りの蒸しケーキたちにいち早く反応したのはやはりマルコだった。
目を輝かせてケーキに手を伸ばす姿に思わず笑みが漏れる。
そんなマルコに倣って次々に皿に手を伸ばす仲間たち。

「マルコは本当に甘いモンが好きだよなァ」

手のひらサイズとはいえ結構な量のケーキたちを平らげていくマルコに、呆れ半分感心半分といった表情で呟くクリエル。

「そればっか喰うのに太らないのは不思議だよな!」

口いっぱいにケーキを頬張りながら笑うエースに「そりゃおれの栄養管理が完璧だからだ!」と胸を張ってみせる。

「違いねェ!」

ドッと沸く場と上がる笑い声におれも声を上げて笑う。
こんな些細な事で笑い合える日常は“自由”と共に海賊の特権だろう。

「随分楽しそうじゃねェか。おれも混ぜてくれ」

そんな輪にのっそりと加わったデカい影。

「お、来たな。ブレンハイムには特別サイズを用意してあるからな」

そこは抜かりなく、仲間の為に一肌も二肌も脱いじまうのがこのサッチ様クオリティだ。

「うわ!」
「スゲェ~!!」

普通サイズの20倍くらいの直径のケーキに場が更に騒がしくなった。
これ焼くの中々大変だったんだぜ?

「こいつァ、美味そうだ!ありがとよ、サッチ」

豪快に笑って特大ケーキを口元に運ぶブレンハイムの動きがぴたりと止まった。
見遣ればヤツとケーキをじ~っと見上げるマルコの姿。

「…」
「マルコ、これも食うか?」
「…(こくり)」

((((“こくり”っておまえ――――!!!!!!))))

思わぬマルコのリアクションの愛らしさに身悶える一同。勿論おれも例外じゃなかった。
数分後、ブレンハイムの肩に乗っかり嬉しそうにデカいケーキのお相伴に預かるマルコの姿があった。
少しずつ千切ってはマルコの口元へと欠片を運ぶブレンハイム。
それを受け取り嬉しそうに頬張るマルコ。

((((…紛れもなく“餌付け”、だな))))


「おっと、」

不意に強い風が吹く。どこか甘酸っぱいような香りのぬるい温度の風だ。

「そういえば、次の島は春島だったか」

ビスタのマントが風を孕んで大きく揺れる。

「あ…」

頭上の小さな呟きに皆が視線をそちらへ遣った。
中空へと手を伸ばし、何かを掴み取ろうとするマルコの手。

「これは…」
「花びら、か?」

風に乗って薄いピンクの欠片がひらひらとモビーディックに降り注ぐ。

「サクラ、か?」
「そう言やァ、今度の島はサクラの名所なんだとよ!」

ジョズの呟きにアトモスが笑って答える。

「こんなとこまで飛んでくるモンなのか…」

よっぽど立派な木があるんだろう。折りしも季節は春、ちょうど最高の見頃に違いねェ。

「…こいつァ」
「決まり、だな」

互いに顔を見合わせてニヤリと笑い合う仲間たち。
さて、と。おれもまた忙しくなるかな。

「誰か親父に伝えて来い!次の島では盛大に花見だァ!!」

メインの料理は本職のコックたちに任せて、おれは花見に合いそうな菓子を作るべく再び厨房へと足を向けるのだった。



(2010.03.26)







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