御礼(深々)
拍手ありがとうございました!
つたないものですが、お礼に小噺など用意してみましたので、
お時間ございましたら、どうぞご覧になっていってくださいませ。
>>唐葵 <サナダテ/夏/真田視点の伊達さん/ほのぼの>
きれいなひとだと、想うのだ。
「これは何の華であろうか」
すっと伸びた茎のさきに、凛と白い華が高く天を望んで咲いている。
眩惑する様な、灼かれる様な夏の陽射しに涼しい風情の華を示す。隣を歩くひとは、僅かに物憂げな面持
ちで、背高い華をちらと眺め上げた。
「あー……葵だな」
雪国に育った所為か、政宗は暑さが得意ではないという。
そう告げた言葉のわりに常と変わらぬ風情に見えたが、半日ほど共に過ごすあいだには、違和感を幾つか
見て取れた。
「これが葵、でござるか」
「あぁ。知らねぇのか? わりに名の知れた華だと思ってたが」
幾らか緩やかな仕草で首を傾げる。常であれば浮かぶ、三日月の笑みがそこにない事も、例えば微妙な
齟齬のひとつだ。
「不調法ゆえ……お恥ずかしい限りでござる」
「まぁあんたが華なんかに興味持つとは思ってねぇけどよ」
否定出来ない揶揄に口を噤む。政宗は漸く微かに笑って、葵を横目に路を進んでゆく。
夏の午後の気怠く澱む暑さに、すらりと真っ直ぐな背が際立っていた。
葵の茎は、空を突き崩す程に高く高く伸びる。
しかし艶やかな白い華は、その茎に重過ぎはしないのだろうか。
「政宗殿に似ている」
並んだ葵を通り過ぎる刹那に、思ったままを口にすれば、半歩さきを行くそのひとは、怪訝そうに左眼の視
線を寄越した。
「Pardon?」
異国の言葉で語尾が上がる。訝る視線と何度か聴いた経験から意味を察し、繰り返した。
「葵は政宗殿に似ていると」
「……何だそりゃ」
案の定、隻眼はすぐさま路の先に戻されてしまった。いつもより幾らか口数が少ないのも、そういえばひとつ
の違和感だ。
じり、と地を焦がす夏陽が、陽炎の様に宙を揺らめく。
きれいなひとだと想うのだ。
鋭いが端整な面差しや、それ以上に、その在り方総てを籠めて、きれいだと。
疵も弱さも痛みさえも、圧し籠めて毅然と歩むひとだから。その強さも、凛とする背も、曲げない意志も、そ
の危うささえ。
ほんとうに―――哀しいほど清冽に、きれいなひとだと想うのだ。
「……やはり似ておられると思うのだが」
ぽつん、と零した言葉は、どうやら届かなかったらしい。半歩先をゆくひとは、酷暑の陽に挑む様に、きっぱ
りと歩いて行く。
眩暈の様な夏の空の下で、葵の白がひどく鮮やかだった。
拍手ありがとうございました!
き、季節外れで済みません。
唐葵、とは今のタチアオイだそうです。
ちなみに花言葉は「大きな志」「野心」「気高く威厳に満ちた美」「高貴」…(笑)
2006.09.19 azaya