<お礼SS>












ぬし、それは止めた方が良いぞ。
吉継が困ったような顔をして言ったのが、ことの発端だった。


「刑部?」
「分かっておるのかおらぬのか。だが、その言葉では人を惑わすだけぞ」
「…………なんのことだ」


右も左も前後もない、いきなりの話の展開が分かるはずもない。
しかも話の流れ、そして吉継の口調を考えるだに、どうやら自分は咎められているらしいと察して、三成は眉を寄せた。


「ほれ、あの徳川のことだ」
「…………家康が、どうかしたか」


急激に声が冷える。
不倶戴天の敵の名を聞くと、三成はいつもこうだ。
周囲の状況も考えず、感情が暴走する――――無二の親友と呼べる青年の様子を気遣わしげに見やって、吉継は口を開いた。


「気付いておらんか。ぬしは、奴と対峙するとき、おかしなことを口にするであろ」
「…………」
「ひどく、良くない。周囲も誤った気持ちを持つものだ、あれは止せ、三成」
「…………聞き捨てならんぞ、刑部。私が一体、なにを口にしているというのだ」


できるだけ言葉を選び。
そして、遠回しな言葉で教えてやったというのに、三成の方ではまるで分かっていないらしい。
堂々巡りを通り越し、不愉快の域に達してきたらしい友の姿に、吉継は内心で頭を抱える。
中途半端で話をそらすことを許すような彼でなし――――こうなっては仕方ないと、吉継は腹をくくった。


「『すべてを奪った』」
「……なに?」
「『私のすべてを奪った家康』と、ぬしは言うであろう。あれのことよ。初めて聞いた折、我は息が止まるかと思うたわ」
「…………」


すべてを奪う――――えらく、意味深な響きだ。
三成にとって秀吉がすべてであったことは、重々承知している。
その秀吉を屠ったのは家康であり、そういう意味では、たしかに三成の世界を彼が奪ったと言えるかもしれない。
だが、と吉継は思うのだ。


「もう少し言葉を選べ、三成。あれでは、誤解をするものも出てこよう」
「…………ど、どんな誤解だッ」


そりゃあもう、あんなこんなの誤解に決まっている。
一見すればきれいな立ち姿が、隆々たる腕に抱かれて堕ちる姿まで想像したか、前屈みになる兵が続出している現状を、さても三成だけが気付いていないとは。
ここまで言っても、いまだに状況を認識していない様子に、そろそろこちらの堪忍袋の緒も危うい。
いささか面倒にもなって、吉継は直截な言葉を口に上らせた。


「恋心、で済めば良いな」
「な……に?」
「すべて、というからには、体なども入っているやもしれぬ。ああ、純潔を奪われた、という風にも聞こえるぞ」
「刑部……ッ!?」


へろりと言った吉継へ、鋭い視線が射貫いてくる。
わなわなと震えているのは、口元だけではない。
見れば、肩も腕も小刻みに揺れていて――――さては、潔癖な友にはさすがに刺激が強すぎたろうか。
だが仕方ない、これも義のためぬしのため。
これであの危険な発言を取りやめてくれるのならば、その方がいいに決まっていると、これは腹の中でだけ考えた吉継は、いまや真っ赤になった友の姿を見やった。


「す、すまぬ……刑部……」
「――――」


良かった、どうやらようやく理解してくれたらしい。
これで自分も含め、誤解して混乱する輩は減るであろうと、ホッと胸を撫で下ろしたのだが。


「これは私と家康の問題だ。たしかにあ奴は、刑部、貴様の言う、私のすべてを奪った憎い男だが、なにも周囲に喧伝することではなかったなッ!!」
「……………………は?」


なんですと。
いま、何とおっしゃいましたと。
さすがの吉継も、呆気に取られずにはいられない。
まったく、なんということだろう。


「感謝しているぞ、刑部ッ!! またなにかあったら、教えてくれッ!!」
「………………ああ、そうしよう」


他ならぬ、ぬしのためな、と、つい言葉が棒読みになってしまうのは、許してもらいたい。
激しい頭痛がしてきたのだ。


(あの東照権現め――――)


爽やかそうな顔をして、何という暗黒。
あの笑顔の裏で、しっかりちゃっかり三成を喰っていやがったらしい。
まったくもって許し難く、次にまみえたときは、ぎったんぎったんの、めっためたにしてくれようと、胸にこみ上げるのは、やけっぱちな呪詛の念。
目元を赤く染めたままの三成が、やたらに可憐に見える自分自身にも呆れつつ、吉継は深い吐息を洩らしたのだった。












    BASARA3を開始して、まずビックリしたのがこの発言でした!!
    (私だけでしょうかすみませんすみません(^^;)
    いくら天然ぽいとは言っても、ちょ、凶王さま、まずそこ座れ、みたいな!!
    むしろ何を奪われたのか、話してみろよと小一時間(^^;
    あと、私はどうやら苦労性の大谷さまが好きみたいです……!