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つまらないものですが、楽しんでいただければ幸いです。
全7話




DREAM COME TURE




 「昨夜夢を見たんだよ」
 それは嬉しそうに笑みを浮かべた、大人の夢の話である。









*****




 奥様はエドワード。
 旦那さまはロイ。
 ごく普通の恋をして、ごく普通に結ばれた二人は、ごく普通に幸せな結婚をしました。
 けれどたったひとつだけ、普通ではないことがありました。
 それは奥様は男の子だったのです。




 「ふぁあぅ……」
 大きな欠伸をしながらエドワードが目を覚ますと、ロイの姿がどこにも見当たりません。
 不思議に思ってベッドサイドの目覚まし時計を見てみると、ちょうど七時を回ったところでした。
 「起きれなかった………」
 愛する旦那さまを、美味しい朝食といってらっしゃいのキスで見送るつもりだったエドワードは、がっくりと肩を落としてしばし落ち込んでいました。
 「初めての朝なのに………」
 けれど転んでもただでは起きないのがエドワードの長所です。朝が弱くて朝食が作れなかったのなら、昼食に愛情いっぱいのお弁当を届ければ、できの悪い妻の汚名を返上できるのではないかと思いついたのです。
 妻としての始めての仕事がお弁当とは、何だか一風変わった二人にはぴったりかも知れません。
 冷蔵庫のなかを見ると、昨日買い出しをしたばかりで食材はたくさんありました。エドワードはトマトとベーコン、レタスをベーグルに挟み、それを四つ作りました。二つはロイのため、あとの二つはエドワード自身のためです。そうしてフライドチキンをじっくり揚げ、一つを摘み食いしてみます。
 「うんめー。俺って天才じゃん」
 柔らかくジューシーに揚がったフライドチキンに自画自賛するところは、微笑ましいかぎりです。
 「あとは………何作ろう?」
 メニューを考えるのも、エドワードにとっては楽しいひとときです。
 「そだ。サラダと……オムレツと……」
 言いながら次から次へと作っていく手際の良さは、母親譲りのようです。
 あっという間に愛妻弁当はバスケットいっぱいに準備が整いました。
 しかしまだ昼食の時間には早すぎる時間です。そこでエドワードは洗濯をすることにしました。
 三泊四日の新婚旅行を終えて、昨日は休息日だったため二人揃って買い出しをしたりしていたので、旅行で出た洗濯物をまだ洗ってはいなかったのです。二人分の洗濯は楽しい気分にさせてくれました。
 ついでにシーツもノリを効かせて干したら、そろそろ昼食の時間です。
 エドワードは初めて使う鍵を嬉しそうに閉めると、ロイの仕事先を目指します。
 ロイの勤め先は軍司令部です。そこで大佐という肩書きを得て、五人の部下を従えているのがロイです。
 もともとエドワードはロイの部下の一人でした。
 軍のためにその知識と能力を捧げる、最年少国家錬金術師だったのです。そこでロイと運命的な出逢いをしたエドワードは、あっという間に恋に落ちました。そうしてロイもまた、エドワードの直向きさや健気なところに心惹かれていたのでした。ロイとエドワードは誰の予想よりも早く、恋人になったのでした。
 けれどエドワードは国家錬金術師となり当初の目的であった失ったものを取り戻すことができて、国家錬金術師である必要がなくなりました。そこで上官と部下という繋がりを失う結果に、ロイは思い切ってプロポーズをしたのです。エドワードは小さくこくりと頷き、何のトラブルもなく結婚が決まりました。しかしロイは夫婦という繋がりだけでは満足できず、エドワードは今でも国家錬金術師として軍に仕えているのです。しかし軍属といっても一介の錬金術師であり、研究が主な仕事となるため、エドワードはロイのように出勤することはないのです。
 しかし軍属であることには変わりなく、エドワードは司令部になんの手続きもなく立ち入ることを許される身分です。
 「エドワードさん、こんにちは」
 まだ若いエドワードよりもずっと年上であっても、少佐相当級の階級のエドワードは上官にあたるため、誰もが挨拶をしてきました。それぞれに笑顔で応えながら、エドワードはロイがデスクを置く、彼の執務室を目指します。
 国家錬金術師の証である銀の懐中時計を見ると、ぎりぎりではあったけれどまだ昼休みのほんの少し前の時間です。


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