I MISS YOU:炯俟
      それが好きなわけ(4/4)


 先輩はどうやら、ベッドがものすごく好きらしい。寝るのが好きなのか、それともただ居心地がいいのかは分からない。けれど、気がつくとベッドにいることがよくある。
 そして今も。

「先輩、誘ってるの?」
「何言ってんの? 頭だいじょーぶ?」

 鼻を慣らしつつ呆れたように俺を見る。しかしベッドの上からは離れようとしない。

「退屈じゃないの?」
「んー別にー。しあわせー」
「寝るの好きだよね」
「あ? あーうん、むしろ嫌いなやつなんかいないんじゃない?」

 転んだままこちらを向いてあくびをする。そんな姿も可愛い、可愛いけれど。

「構ってよ、先輩」

 少しは構ってほしい。せっかくの日曜日なんだから。

「話してるだろ?」
「そうじゃなくて、もっとくっついたりとか」
「お前ホント甘えただよな」

 可愛いものを見るような目を向けられ、少し悔しくなる。だから意地悪してやろう、なんて思わず考えてしまった。

「じゃあ俺からは触らないし話しかけない。いいの? 先輩」

 本当は俺より先輩の方がずっと甘えたで可愛い。そう思っているからこそ言った言葉だった。しかし先輩は、

「いいよ、別に」

 あっさりと、少しも悔しがることなく、むしろその方がいいとばかりに言い切った。
 悔しい、いや、悲しい。
 俺はベッドの上の先輩を前に、本気で肩を落とし項垂れた。

「言わなきゃ良いのに」

 そんな俺を見ながら笑う先輩。ああ、やっぱりこの人に敵う日なんてこないんじゃないだろうか。

「だって先輩構ってくれないから」
「だから、構ってるじゃん? ていうかくっつきたいならお前がここに来い」
「行ったら俺、負けるみたいじゃない」
「何の勝負なんだよ」

 言いながらも少し後ろへとずれて俺をベッドの上へ誘う。普段こんなことされようものなら間違いなく勘違いして襲いかかってしまいそうだが、今日はそんな気分にもなれない。

「ほら、山下おいで」
「先輩ってずるいよね」

 文句を言うが、先輩に促されるまま俺は先輩の隣に転ぶ。先ほど先輩がいたおかげで、そこは温かくて心地が良かった。

「ベッド、好きなの? 先輩は」
「好きだよ」
「寝るのが?」
「転ぶのが」

 目を閉じて完璧に睡眠モードに入った先輩を寝かせまいと問いかける。先輩は面倒くさそうに、しかしきちんと答えを返してくれる。

「それは寝るのとは違うの?」
「違うよ、寝たいわけじゃないもん」
「じゃあ何したいの?」
「何ってこともないんだけど」

 先輩の答えが良く分からないものになってきた。多分、もうすぐ寝る、ということだろう。

「だけど?」
「お前の匂いがするから、好きなんだ」

 問いかけた俺に、先輩ははっきりと言った。が、すぐにそれは寝息へと変わった。キュンとした、と伝えることも、可愛い、と褒めることもさせてくれず。

「……ずるいよ、先輩」

 ベッドの中、可愛い人を見つめながら、俺は人知れず呟いた。



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