『バイバイ』

そう言って、
君は振り返るのだ。



ゆっくりと、ゆっくりと見慣れた帰り道を歩いて来たつもりでも。
あっという間に時は過ぎ、君と繋がれた手に自然と力が入る。

君の家の扉の前で二人の足が止まった。
それは、別れを惜しむかのようで切ない時。


「バイバイ」


君は俯いて、僕の顔を見ずにそう言った。


「うん、バイバイ」


僕が呟けば、力を込めていた筈の手から君の手がするりと抜けた。
同時に手には冷たさと焦燥感が伝わる。

寂しくなった手を見つめている間に君は扉の方まで歩いていた。
離れて行く距離、焦る僕。
君はもう一度言う。


「バイバイ」


そう言って、
君は切ない笑顔で振り返るのだ。

君の矛盾した言葉と行動。
僕も同じなのかもしれないけれど、自分の手を握り締めて君を見た。



「また、明日」



それが、それひとつが
君には肝心な要で。

切ない笑顔は瞬時に消えた。


「明日ね」

「明日」


確認する様に君は繰り返して、僕は素直に頷いた。
君はドアノブに手を掛けて、扉の後ろに消えて行く。


最後の最後、
君の姿が見えるまで。
僕は君の様に繰り返した。



『また明日』

どうかこれが、想う君に明日も言えますように。








有難う御座いました






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