温かい拍手、ありがとうございます。
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       Aquamarine お決まりのただ甘いだけのハジ小夜ではありますが、よろしければどうぞ!!



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       とにかくハジは私に甘い、と思う。
       今日だって、ハジのチェロをBGMにたまには本でも読んでみようかと
       珍しく本棚の前に足を運んだら、すぐさま飛んできて、


       「言ってくだされば、私がおとりしますよ」とか、


       「もし手を伸ばして高いところの本が落ちてきたらどうするんですか」とか、言ってる。


       その心遣いは確かに嬉しくないことはないけれど、
       それでも、たまには何でも自分でやってみたいと思うときだってあるの。
       それにね、なんだか、ものすごい子供扱いされてるように思えて癇に障ることだってあるのよね。
       でも、そんなことを言ったらハジはきっと傷つくと思うから、絶対言わないんだけど…。
       
      
       あの何も知らずお嬢様然として暮らしていた動物園でだって、
       最初の頃こそ生意気だったハジもいつの間にか、誰より私に優しくなった。
 

       ―そういえば…いつからハジは私に優しくなったのかしら。

       
       シュバリエは女王には敬愛の念を抱くらしいから、きっとそれ以前、
       まだハジが人として暮らしていたときからで間違いはないのだろうけど……。


       そこまで考えが及びはしたものの、そこから先はさっぱり思考は止まってしまった。
       こうなったら、本人に聞くのが一番早いじゃない。
       妙案を思いついたとばかりに、悪戯心も湧いてきた。


       いつの間にか。
       ハジに腰を抱かれるように書庫の前からリビングのソファ、それもなぜかハジの膝の上。
       確かにここは私の定位置ではあるけれど、
       できれば、まだ日の明るいうちは遠慮したいのよね。
       ここに座ってしまうと後はもう、ハジの思い通りになってしまうんだもの。


       ―今日は絶対、ハジの好きにはさせないんだから!!


       と勢いよくハジの膝から降りた。


       ― あはは。ハジったら、驚いた顔してる。


       私はね、いつもの取り澄ましたような表情も好きだけど、
       ほかの誰でもない、私だけしか知らないこんな顔のハジが特に好き。
       今日はこんな私しか見たことのないハジをもっと見せてほしい。
       そうね、私だけのハジがもっとたくさん見れたら、
       そのあとはハジの好きなようにしても、いいわ。
       決して言ってあげないけど。


       「ねぇ、ハジ。ハジは私のこといつから好きだったの?」


       ― ほらまた、いつもより少し目が大きく開いた。


       「えっ。……そうですねぇ、いつと言われましても……。」


       ― フフフっ。困ってるハジなんてめったにお目にかかれないからしっかり堪能しちゃおう。


       「初めてあった頃のハジ、もの凄い生意気だったじゃない。
         私のことなんてきっといけ好かない女の子とでも思っていたんでしょう?」 

   
       ― きゃあ~!!ハジの眉間に皺ができてる~。


       「そういえばそうですね。確かに出逢ったばかりの頃は
            私もあなたのことを生意気なお嬢様と思ってましたね。」


       ― あ、やっぱり!!確かにあの頃の私は自分でもかわいくなかったと思うわ。


       「でも、あなたが私を抱きしめてくれたあの瞬間、あなたを誤解していたのだと知りました。」


       さっきまでとは違って、優しい瞳で見つめられて今度は私の目がまん丸になってしまった。


       「それまではわがままなお嬢様としか見ていなかったのですが、
          あの時あなたから感じたのは温もりと不器用な優しさでした。
            思えばあの瞬間から私は恋に落ちていたのでしょうね。」


       そう言いながら。ハジは私を見つめたまま、その長い指で私の短い髪を梳いていく。
       静寂だけが見守る、二人だけの時間。


       「ところで、小夜。」


       そんな中、沈黙を破ったのはハジ。


       「あなたはいつからなのですか?」


       しかもその口調はどことなく意地悪に聞こえるんだけど……。


       「ホヘっ!?」


       問いかけの意味がうまく掴めなくて、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。


       「あなたが私のことを好きになってくださったのは、いつ?」


       ― ちょっ!!!なんだか立場が逆転してるような気がするんだけど……。


       しかもハジのいじわる度は右肩上がりに上昇をはじめたみたいで。


       「そ、そんなのよく覚えてないよ。だって、いつもそばにいてくれたから。それが当たり前になってたし……。」


       私、顔を真っ赤に染めてシドロモドロ答えるのがやっとの状態で。


       「でもそばにいてくれないと不安で…。あぁ~、もういいじゃない。昔のことなんて!!」


       私だって、逃げるが勝ちって諺くらい知ってるのよ。


       ― ここはきっとさっさと逃げないと、とってもまずい展開が待ってるような気がするの。


       「そうですね、過去などこれからの私たちにはもう必要ありませんね。」


       遠い昔を見るような目をしていたかと思えば、いつも優しい視線は私のもとへ。
       またもしっかりとハジの瞳に縫い付けられて、私は瞬きすらできなくなった。
       その時ハジの瞳の中に見えたのは、私たちの未来。とっても穏やかで幸せな未来。


       「うん、そうだね。過去はどんなに振り返っても変えられっこないから、
         それならこれからを幸せに生きていこう、ハジ、ずっと一緒に。」


       「もちろんです、小夜。」


       なんだかいつものハジのペースに乗せられた気がしないでもないけど……。


       ― しかも私の口から言わされて…。でも。まぁいいか!!


       「ハジの未来も、心も身体も魂も全部ひとつ残らず私にちょうだい。」


       ちょっとだけ悔しい気もするけれど。それよりも遥かに心満ち足りる安堵が私を包む。


       「あなたがそれを望むなら。でも、とうの昔に、私のすべてはあなたのものです。」
       

       ハジの腕が背中に回り、ゆっくりと身体を横たえられる。

  
       ―えっ、ちょっ!! ここソファの上なのに~!!


       けれど一瞬過った思いはすぐさまどこかに押しやった。
       ハジの薄い唇が、私に向かって下りてくるのを感じて、そっと瞳を閉じた。
       

       


       END



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