いいよ式なんて。だってドレス似合わないだろうし。
そう言ったら彼は怒って、バッカ解ってねーな、自分の嫁になるやつのドレス姿は見たいに決まってるだろ?と言った。
それが約一ヶ月前の会話で、時が流れるのは早いなあと鏡を見ながら思う。

「イバちゃん」

その声に振り向くと、キューが白いタキシード姿で立っていた。 髪も後ろに流されてセットされていて…、一目見て正直参った。もう本当に。あいつのために「美麗」なんて言葉はあるんじゃないだろうかと真剣に考えた。
見ていられなくて、なんとなく目を逸らす私の心情など露知らず、キューは私をじっと見つめた。そして、はにかむように笑う。

「…なんだよ。やっぱ綺麗じゃん」
「え?なにが?」
「…すこしは自分のこと気にしようぜイバちゃん…。…前さ、ドレスは自分には似合わないって言ってたよな」
「うん」
「…全然そんなことねえよ。似合う。綺麗」
「……」

嬉しそうに微笑みながら言うから、恥ずかしくて俯いた。
小さくありがとうって呟いたら、それにキューが笑った。私の気持ちを解ってくれたみたいだ、優しい声がうんって頷いた。

だって幸せだもんな、おれら。
?なにそれ?
花嫁が綺麗なのはそのおかげってこと!
…恥ずかしいやつ…。

そんな漫才のような会話をして、また鏡に向き直った。 無表情で見てる私に、キューも同じ顔をして横から鏡を覗く。ふたりの顔が、鏡の中で並んだ。

「…不思議だよね」
「うん?」
「私、年々お母さんそっくりになる」

鏡の中にいるのは、ドレスを着た母のような気がした。
"杏ちゃん。しあわせになりなさい"
そう言って父はそっと白い箱を差し出した。…母の。母の、ウェディングドレスだった。
箱から出した瞬間、ぶわあと花吹雪に包まれたような感覚に陥った。
リーンゴーン…鐘が鳴り響く。その舞い散る花の中に、結婚式を挙げる幸せな顔をした両親が見えた気がした。
彼はきっと泣くだろう。娘が嫁に行くことにではなく、若く幸せを誓った母との想い出に。
気づいたら手を伸ばして、キューの手を握っていた。
これからどんな未来が待っているかなんて、わからない。 だけど、今までの日々が幸せに満ちていたように、これからもずっと、そうしていけたら。願わくば、死がふたりを分かつまで。
そんな願いを手のひらにこめていた。知ってか知らずか、キューも黙って握りしめる。

そして彼はその手をそのまま口元に寄せて、目を閉じた。
…ああ私たち、きっと同じことを祈ってるね。
でも、キューはすぐにいつものまぶしい笑顔になって、いつものように軽口を叩くのだ。
不安も吹き飛ばしてくれるその明るさが、キューの一番好きなところなのかもしれないと思う。

「一緒にしあわせになりましょうか、お姫様?」

――そうだね。キューと幸せになることなんて、きっと遥か遠い昔から決まってた。
その言葉に笑って返すのは、YES以外にないんだから。








どうか、笑いあう未来をこの先も


(見守ってて、お母さん)






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