拍手お礼小説・RAIN FOREST RAIN FOREST

今日も雨はコノ森に降り続く。
ここ何日かずっと雨が降り続いていて、僕はどこと無く苛立っていた。
コノ雨では、ジープで移動するのはジープにとって酷だ。
仕方がないと、それぞれがかっぱを着て、各自荷物を分担して徒歩でこの鬱そうともいえる森の中を進んでいる。
天気の悪さから、コンパスを頼りにしないと、どちらが進行方向なのかわからなくなる。

生い茂る木々の合間から見える空は今日も灰色で、太陽がどの方向にあるのかさえ教えてはくれない。
時計を見れば、そろそろ夕方なんだとは判るが、それでも何か不安が脳裏をよぎる。
「今日はこの辺で休みませんか」
僕の提案に悟浄が直ぐに乗ってくれた。
「そうだな、薄暗くなってきたし、今のうちに寝床確保すっか」
「じゃ、オレ水探してくんな。水筒の中もうカラなんだ」
空の水筒を振りながら悟空が濡れなさそうな木の影に荷物を下ろす。
「お、サル中々働き者じゃんか、俺のも頼むわ」
「何でだよっ悟浄が自分で行けば良いだろぉ」
「モノのついでなんだから良いだろうが、心狭いヤツ」
二人の言い合いに三蔵が判定を下しす。
「悟空、行ってこい」
「えぇ〜っ!!三蔵っずりいよ、悟浄ばっかり楽してっ」
「心配するな、コイツはこれから薪を拾いに行かす。水汲みに行くくらいで、
二人も動いてたらただの無駄だろうが、早くメシにありつきたかったら、さっさと行ってこい」
「ちえっ」
いつもと変わらないやり取り。
僕はそんな三人を微笑みながら見ていたつもりだった。
悟空と悟浄がぶつぶつ文句を良いながらそれぞれ与えられた仕事をこなしに行ってしまうと、
僕も簡単にでも夕食をと荷物を開けたその時、ふと肩を叩かれた。
「すこし、座って休め」
「僕は大丈夫ですよ」
「良いから座れ」
三蔵に無理やり木の根元に座らされて、僕はどうして良いのかきょとんとしていた。
三蔵は僕の横に座って、ごそごそと懐を探って煙草を取り出すと、なんでもないようにライターを取り出して火をつけた。
一気にすうっと煙を吸い込んで、ふぅっとゆっくり吐き出す三蔵。
三蔵の意図が読めずに、僕は三蔵の横顔をじっと見つめてしまった。
「深呼吸」
「え?」
「深呼吸、してみろ」
またしても僕の思考を混乱させる三蔵、でも寄り合えず言われたとおりに深く空気を吸い込んでみた。

「あ」

吸い込んだ空気に、今まで気付かなかった香りが混じっていた。
深く、それで居て新鮮な、緑色の香り。
息を吐き出すのと同時に僕の体から力が流れ落ち、必要最低限の力を残して、僕は座っている木の幹にくたっと寄りかかった。
「雨続きだからって、余計な力、入りすぎなんだよ」
僕の方は見ずに二口目を吐き出しながら、三蔵が言った。
僕はちょっと苦笑して言った。
「三蔵は何時この香りに気付いたんですか?」
「煙草吸ってりゃ、嫌でも気付く。ヤニの味じゃねぇ香りだからな」
三蔵は遠くを見たまま答えた。
「良いですね、こういう時タバコ吸ってる人って」
今度はふぅと小さく俯きながら、呆れたように
「あの赤毛野郎は、多分気付いてねぇがな。」
「悟浄は煙草の香り自体が好きみたいですからね」
僕は自然と笑顔になって、答えていた。
そのまま、悟浄たちが帰ってくるまで、ただ深い森の香りに包まれながらゆっくりと言葉を交わした僕と三蔵。
僕はこんな雨ならば歓迎できると、不謹慎にもすこし雨の日の楽しみを覚えた。
END


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