お題・強い力で(奪ふ男 幼稚園時代 智明視点)


「ねー、ともあき。朝にやってたドラマ見たー?」
 ルリがオムライスを食べながら、一緒にいる僕に問いかけた。
「ドラマ? 見てないよ」
「そっかあ。あのね、今日見たドラマで変なこと言ってたんだよ。イミがわからなくてさ」
「どんなこと言ってたの?」
「キズモノにした責任をとって、ケッコンするって」
 僕の頭の中に、ハテナが浮いた。
「それどういうイミ?」
 ケッコンっていうのは、好きな男の人と女の人がくっついてフウフになる、ってことはわかっている。僕の父さんと母さんもケッコンしている。
 でも、『キズモノにした責任をとって』、っていうのがわからない。
 好きな人同士だからケッコンするんだろう? 責任ってなに? キズモノって?
「ともあきもわかんない? るりこもわかんないんだ」
 二人で悩んでいると、ルリのお母さんが現れた。
「二人とも、こぼさずに食べなさいね」
 今日はルリの家でお昼ご飯を食べているのだ。父さんと母さんが忙しい日は、いつもそうなる。
 オムライスを前に、僕たちは「はーい」と答えた。
 そうしたら、ルリがおばさんに問いかけた。
「ねえねえ、お母さん。キズモノにした責任とってケッコンするってどーいうこと?」
「え、ええ? どこで聞いたのそんなこと」
 おばさんは驚いているようだった。
「ドラマで、そんなこと言ってたよ。ねえねえ、どういうイミなの?」
 ルリはねだる。僕も気になって、おばさんの顔をあおぎ見た。
「どういうって……キズモノにするっていうのは、怪我をさせちゃうってことよ」
「なんでケガさせちゃうとケッコンすることになるの?」
「そりゃあ……いろいろあるの。そういうものなの。ほら、早く食べなさい」
 おばさんは適当に言って、僕たちをせかした。おばさんはそれ以上答えてくれず、僕たちはオムライスを食べるしかなかった。


 お昼ご飯を食べ終わると、近くの公園に連れてってもらった。
 おばさんはちゃんと説明してくれなくて理由はわからなかったけれど、キズモノにしたら責任をとってケッコンする、っていうのは本当らしい。
 その事実は、ピカピカと僕の頭の中で輝いた。
 ケガをさせたらケッコンできるんだあ。
 ちょうど僕の前をルリが歩いていた。
 ルリが僕のおよめさん、と考えるとくすぐられたように嬉しくてはしゃぎたくなる気持ちになった。
 背中を押したら転ぶかな。ひざをすりむいて、ケガをするかな。そしたらおよめさんだ。
 僕は何にも気づかないルリの背中に、両手をのばした。
 そして、わくわくしながら強い力で押そうとしたとき――
 くるり、とルリがふりかえった。むっとした表情で。
 両手をのばしたまま、僕はかたまった。
「ねえ、ともあき。おかしくない?」
「な、なにが?」
「さっきの話。キズモノにしたら責任をとってケッコンする、って。なんでケガをさせるようなイヤならんぼうものとケッコンすることになるの? るりこだったら、そんならんぼうな人とケッコンなんて、絶対したくないよ」
「…………」
「ね、ともあきもそう思うでしょ?」
 かたまっていた僕は――
「――うん、そうだよね。僕も変だと思ってたんだ」
 にっこりと、かわいいと言われる笑みを作って、のばしていた手を後ろにかくした。
 僕の反応に、ルリもにっこり。
「やっぱりともあきもそう思うよね。よかった」
 そうして笑いあってから、何事もなかったかのように、僕たちは砂場に遊びに行ったのだった。







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