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ちなみに出演者は『ツバサ』の吸血鬼双子と狩人兄弟です





『本の世界』

ある日の昼下がり、吸血鬼が3人そろってティータイムを楽しんでいた。
もちろん、神威と星史郎は舌戦を繰り広げているのだが、
『いつもの事』なので彼らにとっては平和な光景である。
そこへ封真が1冊の本を持って部屋に入ってきた。
他の次元で見つけたもので、本の世界に入れるという。
俄かには信じられない話に神威は、まさか。と呟いて本を調べ始めた。

「本当かどうか試してみましょう」

そう言うが早いか星史郎は神威から本を取り上げる。
そして即座に本を開き赤いボタンを押す。
瞬間、ピコ。という音と共に辺りは強烈な光に包まれたのだった――。



「ここ……森?」

昴流は辺りを見渡して呆然と呟いた。
先ほどまで一緒にいた神威たちの姿も見えない。
本当に本の世界に入れたのだ。
自分の格好を見てみると、黒のハイネックシャツとズボンとブーツ。
それに赤いジャケットに赤いリボンのついた黒い帽子という姿。
足元に置かれていたバスケットを見た時、不意に頭の中に情景が思い浮かんだ。
この森の奥に病気で寝込んでいるおばあさんの家に行くように言われたこと。
このバスケットの中には、お見舞いにと母から渡されたクッキーとワインが入っていること。
昴流はバスケットを持つとおばあさんの家へと歩き出した。

「えっと、この先を右……え?」

迷いやすい昴流のためにと母から持たされた地図を見ながら進んでいたのだが、
ふと自分の名前を呼ぶ声がして振り返った。
こちらに向かって走ってくる神威の姿に自然と昴流の顔がほころぶ。
神威が追いつくのを待ってから話しかけた。

「それ、狼さんの格好?」
「え?」

昴流の言葉で神威はようやく自分が狼の格好をしている事に気がついた。
さっきから妙に暑いと思ったのは狼の着ぐるみのせいかと納得する。

「そうみたいだな。で、どこに行くんだ?」

神威の問いかけに昴流は、病気で寝込んでいるおばあさんの所へお見舞いに行くところだと答えた。
神威は何とか昴流をここで足止めして自分は先回りしなければならないような気がした。
しかし口から出たのは、俺も一緒に行っていいか? という言葉。
そして嬉しそうに微笑み頷いた昴流の手を取り歩き出した。



おばあさんの家は程無くして見つかったのだが――。

「おばあさんって一人暮らしだよな?」

神威が思わず昴流に質問したのも、
煙突から立ち上る煙と共にパンの焼ける良い香りが漂っていたからだった。

「うん。そのはずだけど……」

自ずと昴流の答えも歯切れの悪いものになる。
他にも見舞いの客が来てるのかも知れない。と言う昴流に
神威は、見舞いに来て料理を作る奴なんていないだろう。と返す。
2人は、これは一体どういう事なのだろうかと、しばらく悩んでいた。
だが結局、確かめてみた方がいい。ということに落ち着き、家に向かって歩を進めた。
そしてドアの前にたどり着くと、神威が昴流を制して2、3度ノックする。

「はーい」

即座に聞こえてきた声は、どう聞いても老女のそれでは無い。
やっぱり他に見舞い客が? と、2人が顔を見合わせた時、鍵を開ける音がして――

「昴流くん待ってましたよ。って、神威も一緒ですか」

桜色のネグリジェとヘッドキャップを付けた星史郎が満面の笑顔で出迎えた。
しかし来たのが昴流だけじゃないと分かると笑顔も声のトーンも一段落ちてしまった。

「お前が“おばあさん”か」

神威は嫌なものを見たとでも言いたげな顔で、いつでも攻撃できるように構えをとる。
挑戦的な神威の様子に星史郎は口の端を上げただけの笑みを浮かべた。
昴流は今にも火花を通り越して乱闘になりそうな2人の様子に少し困った表情に変わる。
星史郎を睨みつけていた神威が何かに気付いたような顔をしたあと不敵な笑みを浮かべた。

「お前を倒さないと話が進まないみたいだな」

そう言うが早いか神威は星史郎を殴りにかかったのだが、難なく避けられ舌打ちをする。

「大人しくやられろよ『おばあさん』」
「嫌です」
「話が進まねぇだろう」
「進まなくて結構ですよ。どの道最後までは出来るはずありませんし」

そう答える星史郎は自分がやられない為の嘘にしては自信満々な顔をしていた。
「最後まで出来ない」と、どうして言い切れるのかと神威が聞くと

「僕を倒したら次は昴流くんですよ。君は昴流くんを倒せるんですか?」
「……っ」

神威は答えに詰まってしまった。
昴流を手に掛けるなんて、どう考えても出来ないのだが、星史郎の言う事に同意はしたくない。
そんな神威の気持ちを解ってるのだろう、星史郎は笑顔をみせている。
神威は星史郎のこの笑顔が嫌いだった。何を考えてるのか分からない胡散臭い笑顔。
どうしようもなくイライラが募り、再度殴りかかった。
その時、能天気な声が聞こえてきた。

「俺の出番は……まだみたいだな」

声のしたドアの方を見ると封真が顔を覗かせていた。
若草色の狩人の格好で左肩から猟銃を掛けている。
封真は神威と星史郎が戦闘中なのを確認すると、近くにいる昴流に話しかけた。

「昴流さん、時間が来るまで一緒にお茶でもどうですか?」
「……えっ?」
「ちょっと待て」
「そんな事させませんよ」

昴流が封真の突然の申し出に驚いている間に、
神威と星史郎がそうはさせないとばかりに封真の方に向かってきた。

「ちょっと待て。何で2人とも俺の方に向かってくるんだ」

珍しく利害の一致した2人に襲われそうになった封真がドアの近くにあった赤いボタンを押す。
すると再び、ピコ。という音と強烈な光が起こり――

「……ここは?」
「あ。神威、狼さんじゃなくなってる」

気がついたら4人は元の部屋に戻っていた。
双子は本を眺めながら、これってどんな仕組みになってるのかな。とか、
他の本の世界も見てみたいね。と言うような会話をしている。
星史郎は隣で安堵の息をついた封真に話しかけた。

「中断ボタンを押したのか、封真」
「兄さんと神威に共同戦線張られたくありませんからね」

封真は双子に本を渡してもらうと、仕舞ってきます。と言いおいて部屋を出た。



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