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虎嘯ファンへ12のお題〜5.和州の英雄
止水には明るく気持ちのいい風が吹いていた。城壁の中には無残に焼けただれた家も多かったが、住人達の足取りは軽く、交わす言葉も弾んでいた。この光景が見たくて俺達は闘ってきた。人間が人間らしく生きられる故郷というのは何にも増して美しくかけがえのないものなのだと、杜撰な神経の俺でも感じることがでる。
「城壁には朝日が映えるな」
女墻に昇ってきた陽子が俺の隣に立った。
「そりゃ、陽子の手柄だな」
俺を見上げて碧の眼を見張るその背は高いとは言えず、体は細く、声は若過ぎるくらいだが、陽子はこの国の王だった。歳に似合わねぇ並外れた度胸を考えれば納得できるものの、陽子は遙か天上に住む存在にしては府第にいる仙共よりもずっと気安い。この風を運んできたのは間違いなく陽子だった。
「それを言うなら、長年に渡る虎嘯達の努力の成果だよ。王がしっかりしていれば、虎嘯達がここまでしなくても済んだことだろう?」
少しばかり不機嫌な声に金波宮の連中の姿が見えた。
「今回のことで俺は悪徳領主に虐げられている連中にも国を傾ける原因があるんじゃねぇかと思っている。慶の人間は何かにつけて懐達と言っては、自分の不幸を王のせいにしたがる。だがな、幸せなんぞ自分で掴むもので王に与えられるもんじゃねぇ。だから陽子は何でも自分で背負い込もうとしなくていい」
俺が陽子の頭に手を乗せると陽子は目を見開いてから少しだけ笑った。
「桓堆はすっかり態度が改まってしまったけど、虎嘯は変わらないな」
陽子は機嫌良く言う。
「俺には宮仕えなんざ無理そうだ」
「そんなことはない。虎嘯のおかげでわたしはこの国が好きになれたんだよ。今までは守らなくてはならないと思いこんでいたのだけど、それは違うとわかった。わたしが守るんじゃなくて、この国を守ろうとしている虎嘯達のような人間の手助けになればいいのだと今では思っている。これからも側にいてくれたら、わたしも虎嘯に負けないように頑張れると思う。だから金波宮に来ることを考えておいて欲しい」
「最初から逃げ出すのもなんだから、一度は行ってみるけどな」
「虎嘯なら大丈夫だよ。新しい和州侯が次の郷長を決めるまで止水を頼む」
「ああ、陽子の方がもっと大変だろうけどな。頑張れよ」
「うん、頑張る!」
陽子は右手を握って軽く持ち上げると、ひらりと風のように女墻を降りていった。
金波宮には昇紘や呀峰を飼い馴らしていた靖共の影響を受けた奴らの巣窟だということぐらいは想像が付く。だからこそ、俺は堯天に行くことにした。人間以上に人間らしいあの王の為になら命を懸けるのも悪くはないと思っている。
−了−
今のところ、おまけSSSは1作のみです。
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