使役者達の戯れ  少年の憂鬱 1





二十五枚の戦略の中に、五枚の魂を込めて。

神々が創りしカード『アルテイル』。

遥か昔、イクサーと呼ばれる使役者達はこのカードを自在に操り世界を護ったという。

形式を変え、姿を変え、イクサーは現代も存在している。



今、この場で決まったのは一つの勝負だった。正確には、勝敗が付く直前。

「俺のオープンカードは突撃EX!!自軍の熱血暴走野郎『オルヴァウス』のATを+50、AGIを+5するぜ!!」

少年が相手にしていたイクサーはちゃらちゃらとしたアクセサリーに身を包んだ若者だった。

無駄にテンションが高く某カードゲームの漫画を想像させる。

相手の場には一体、少年の場には二体。お互いのライフポイントは1。

どちらに勝敗が傾くかは未だ分からぬ状況だった。

しかし、少年はため息混じりに言う。

「お前の負けだ」

「勝負の結末なんてものはなぁ!最後までやんなきゃわからないぜ!!」

既にソウルカードは五枚捲れているのに、若者は無駄に強気である。

これから形勢逆転…とでも思っているのかもしれない。

確かに、一気に殲滅を狙うならば突撃EXは良いカードだ。

だが、相手が悪い。

もう一度小さくため息をついた少年は自らのオープンカードを捲った。

「オープンカード、無慈悲な死」

静かに捲られたカードに描かれていたのは兵隊の男。

不意に足元が崩れたため、驚いた表情を浮かべている。長斧を取り落とし、その手は虚空を彷徨っている。

この絵の男の運命はそのカード名通り。そして、効果もまた然り。

「敵軍の熱血暴走野郎『オルヴァウス』をセメタリーへ」

少年は淡々と効果を指示すると次の瞬間、ゲーム盤の上から相手の場にあったカードが消えていった。

「貴様あぁぁぁ!!俺のオルヴァウスををっ……!!!」

若者の無情な叫びに答えることなく、試合は続く。

「白銀黒狼『メティス』、イクサーアタック……これで終わりだ」

相手の悲鳴じみた声が響く中、ざくっと何かが削れるような音がした。

すると同時に勝敗の決まった音が鳴る。観客のどよめき。

WINNERという勝利を知らせる文字と共に二つ星型のチップが少年の眼前に転がった。

賭けた分と勝った分だ。

「対戦、ありがとうございました」

打ちひしがれている若者に少年は一礼した。礼儀としてのものだ。それ以上の意味はない。

さっさと対戦部屋を後にしようとする少年に対し、若者は。

「くっ…お前……きっと伸びるぜ。この俺に勝ったんだ。強イクサーになれよ…!」

いい試合だったぜ、と握手を求めようと片手を差し出し、友情を誓おうとする。

そんな空気の読めない若者に少年は冷めた目で言った。

「お前、いちいち五月蝿いよ」

そうして、握手に応じること無く少年は部屋から去ったのだった。



アリーナには己の力を試さんと、今日も多くのイクサー達が集まる。

少年もまた、一人のイクサーだった。少年の本名は誰も知らない。

ただその小難しい名前と、やけに冷めた表情は、戦い熱に浮かされやすいイクサー達の中でも浮いた存在であった。

「どうだぃ?今日の調子は」

一人の男が少年に話しかける。少年は微笑みもせずに、淡々と言葉を返した。

「今のところ三連勝」



少年の名は、五百蔵。



彼が、今回の主人公である。



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