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妖精物語 〜追放〜 青白く冴えた満月の真夜中、私はいつしか習慣になってしまった氷の墓場を彷徨する。 もう何百年の間、それを続けたことか。 満月の不思議な魔力が氷の棺の中に眠る妖精を映し出すから。 妖精は光や空気に弾けて消える。そしてその消滅のみが妖精にとってはただ一つの死。 そして私は氷の棺に閉じ込められた親友を満月の夜に見に行く。 弾けて消えるその瞬間まで、延々と自分の罪を忘れない為に。そうして親友愛おしさの為に。 氷の墓場はまるで全てが死に絶えたかのように、どこまでも深い静寂に包まれていた。 広い広いどこまでも続くかと思われる氷の海原に青白い月の淡い光が寒々と下りている。そして氷の下には閉じ込められたたくさんの眠る妖精達。まるで生きているかのように美しいままに。 たくさんのたくさんの氷の棺。 私はゆるやかに白く舞い上がる冷気の氷面上をすべるようにして飛んだ。 そこに迷わずたどり着く。 いつだって私はたくさんの他の誰かではなく、その背からバリバリと美しい美しい羽根を千切られた大切な大切な親友の下へ、真っ直ぐに。 「私達、同じ朝露の時に生まれたんですもの」 氷に手をかざして、私は話しかける。 いつだって千切れた羽根は生々しく痛々しく、まるで昨日があの日であったかのように、私に全てを思いおこさせる。 「もう、今は、ガオウさまもギオウさまも光の泡と消えてしまったのよ。だからあなたはもう帰って来ていいのに……。あなたは今何処に居るの??」 涙が氷の上に落ちるとほんの少しだけ氷は融けて、でもまたやがて涙もろとも凍ってしまう。 氷の棺に眠るたくさんの妖精達は皆、訳あってこの妖精の国を追われたかわいそうな妖精達。 いつもは暖かな優しさに包まれたこの国も満月の夜の墓場だけは違う。 追放されるのならば死の方がどんなに幸せだろう。その殆ど全てが二度とはこの妖精の国には辿り着けないで、生の時間を使い果たして死んでゆくのだと聞く。 でもね、でも、ガーラット。 あなたは帰ってこなきゃいけないわ。 だって本当はあなたは『追放されし者』ではないのだもの。ガオウさまのギオウさまの、そして私の罪をも全部あなたは一人で背負ってしまったけれど、他者の罪など本当に背負うことなど出来ないのよ。 「だから早く帰って来て。私が空気の泡と消えてしまわないうちに」 氷の棺に眠るガーラットからは勿論返事はない。 幾千夜同じ言葉を繰り返した事だろう。そうして消えてなくなるその日まで、私は同じ言葉を繰り返すのだろう。 満月の夜にだけ私は親友を訪(おとな)う。 月の魔力によって映し出された親友は両の羽根をもがれて氷の棺で眠る。 「痛かったでしょう。痛かったでしょう……。とても痛かったでしょう?!」 羽根をもがれても、妖精でなくなってしまっても、ガーラットほどに妖精らしい妖精は居やしないと思うほどに。 早く帰ってきて。 そうしたら私は『邪悪なる妖精族(ダーク・エルフ)』との長い長い戦いに出て行けるから。 光を紡いで剣を作って、光の泡となって消えるから。 ――月が沈む。 そして月の魔力が消える。 私が立ち尽くすのは冷たい冷たいただの氷の平原。 でも、ここにガーラットが眠っているということを私は知っている。 早く帰って来て。 はやく……
〜end〜 |
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