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+++親善大使様の冒険 8












 峠を越える前に町で物資の補給をするとかで、市のたつ時間に合わせて町を発つことになった。
 小さな町の小さな宿のベッドはひんやりと冷たくて固い。そこに座ってガイがするに任せる。
 ベッドに入る前、髪の手入れをしながらそう説明をするガイにルークは市なら知ってると鼻高々で言った。
「りんごを買うんだぜ」
「なんだりんごを食べたかったのか?じゃあ仕入れておくな。さすがにアップルパイは無理だと思うけどりんごかぁ……」
「は?なんでアップルパイの話になんだよ?りんごだってんだろ?」
「だからりんごと言えばアップルパイだろ?アップルパイが食べたいかったんじゃないのか?」
「ちげぇよ。りんごを買って食ったことあるって言ってんの!ガイはしらねぇかもしれねぇけど。りんごって甘酸っぱくて美味いもんなの。紅くって丸いの!ブタザルも好きなんだぜ。そのまま齧って食べるもんなんだ」
「そっか。そのまま食べたいんだな」
「そのまま食べるもんなの!りんごは!やっぱりガイはしらないんだな。明日俺が教えてやるからな」
 やっぱりガイはあの紅い実を知らないのだと思った。なんでアップルパイがここで出てくるのかわかんねぇけど、ガイが食べたいならアップルパイもやぶさかじゃないけど売ってるのかな?
「まぁガイがアップルパイを食べたいって言うなら売ってたら買ってこいよ。あれならナタリアも好きだし、機嫌治るかもしれねぇし」
 ナタリアは勝手についてきたのに、ルークに対して一日中小言ばっかり言ってる。甘いものが足りないのかもしれない。移動ばかりでお茶の時間もないしな。
 ルークの言葉にガイも納得したのか、大きく頷いてそうだなと笑う。夜だからかガイの笑声も控えめで乾いていた。
「そうだろ。ナタリアうるせぇのちょっとはマシになると思うだろ?用意しておけよ」
「そうだな。探しておくよ」

 そんな話をした翌朝にルークはガイと連れだって市場へと向かった。エンゲーブとは違いちょっと店が少ない。野菜や果物より色鮮やかな厚手の布を売っている店が軒を連ねている。
 ルークは目当ての紅い実。りんごが並ぶ店を探した。
「おい、ガイこっちに行ってみようぜ」
 ガイの袖を引くがすでにガイはアニスにこっちだと命令されて大人しくそちらへと足を向けていた。
「ガイ!」
「悪いルーク。アニスに荷物持ちを頼まれたんだ。。りんごは後でいいか?重いものは最後に買うのがいいんだ」
 りんごを教えてやろうと思っているのに、ガイはアニスの急かす声にそちらへと足早に向かって行く。ルークの手はガイの袖から離れてしまう。アニスとガイはあまり面白く無さそうなグミの店へと入って行ってしまう。狭い店は既に満員で品定めをしないルークを受け入れる余裕はなさそうだった。
「ガイ~!」
 つまらなさそうに呼びかけてみるが、ガイは困ったように眉を下げてルークにすまんと合図を送って来る。こうなるとルークの意向は通らないことは明白だった。
 仕方ないから先にりんごのある店を探しておいてやるかと、ルークは市場を見回した。赤い実を並べる店は数件先に見えた。
「御主人さま~りんごあるですのぉ~美味しそうですのぉ~」
 ブタザルも嬉しそうにそちらへとふよふよと向かって行く。
「ブタザル勝手に行くな……はぐれるぞ」
 ルークはブタザルを追って通りへと出た。
「ちがったですのぉ~」
 紅い実は並んでいたが、りんごではなかった。ちょっと不満だ。数件先にも紅い実が並んでいる。ブタザルはこっちですのぉ~と暢気な声を上げてどんどんと市場の先へと入って行く。
 ルークも後を追う。確かにりんごが見える。その隣も向かいにもりんごが並んでいた。
 さて、どのりんごが一番おいしいものなのか?ブタザルの顔を見てみるとどの店でもおいしそうですのぉと今にも飛びつきそうな顔をしている。
 ルークは一番赤くて一番大きなりんごが並ぶ店が良いだろうと品定めする。後でガイを連れて来てやろう。そして、りんごを買って齧りつくのだ。
 ワイルドなルークの姿にガイはさぞかし驚きルークのことを見直すだろう。もう子供扱いはさせないぜ。とルークはほくそ笑む。
「何、にやついてやがる……」
 ぼそりとマントを被った男が呟くのが聞こえた。今のは俺のことかと横を見ると何処かで見たことのあるような男が隣に立っていた。
 紅く長い髪がマントからこぼれている。この髪、この声……どこかで聞いたことのあるような?とルークはじっとその男を見るがそいつはルークをを見ることなくルークが目を付けていた一番赤くて一番大きなりんごを手にとって購入していた。
「あ……」
 それは俺が……と思ったが既に遅い。ガイが来るのが遅いのが悪い!と一瞬の間にガイを罵りながら落胆で肩を落とす。
 男はりんごを一つ受取り、それを両手に持つとぱきりと音をさせた。りんごが手の中で綺麗に二つに割れていた。
「え?マジで??!!」
 あまりの鮮やかな手腕にルークはその手の中に目はくぎ付けだった。ナイフなど持っている様子もなければ譜術を使った様子もない。
「ほら」
 二つに割れたりんごの半分をルークへと差し出してくる。
「え?」
「これが欲しかったんだろ?半分だがやる。一つは多いからな」
 男はそう言って涼しげな碧の瞳を細めた。
「あ、ありがと……」
 ルークは受取りつつも半分に割れて白い実をさらけ出している面を凝視した。
「なぁ……今のどうしたんだ?すげぇかっこいい」
「二つに割っただけだ」
「何でどうやって?ナイフは?」
 尋ねられた方は不思議そうに先ほどと同じような手の動きをして見せた。
「こうやれば簡単に割れる」
「そうなのか?……すげぇかっこいい」
 ルークは同じ言葉しか出ない自分に気付いていながらも何度もかっこいいと繰り返した。男は少し照れた様子でそんなことはない。誰でもできる。とうそぶきながらりんごを齧った。
「いいからお前も食べろ。食べたかったんだろ?」
 ルークは半分になって食べやすくなったりんごに齧りついた。前に食べたよりずっと美味しく感じた。
「おいしい!すごくおいしい!ありがとう」
「そうか、よかった」
 男はそう言ってじゃあなとルークから離れて行った。人ごみにまぎれていく後ろ姿を見送りながらルークはため息を漏らした。かっこいい……
 どこかで会ったことがあるような気がするが思い出せない。どうやらあちらはルークの事を知っているようだし、もしかすればどこかの騎士なのかもしれない。そのうちまた会うこともあるだろう。と言うかまた会いたいと思った。
 それにしても、丸かじりがワイルドだと思っていたさっきまでの自分が恥ずかしい。次はガイにこれを見せてやろう。

 早くガイが来ないだろうか。


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