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『Short Strawberry Tale:2 薫風』のおまけです。
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薫風

BGM : 「ARIA The ANIMATION ORIGINAL SOUNDTRACK」より
No.20 「天気雨」

   おまけ

  ――『お休み…俺の…(眠り姫)』
 少年のほとんど聞き取れない囁きが字幕に起こされている。しかもご丁寧に彼が途中で飲み込んだ残りの部分も補完されているのだ。
 古ぼけた写真のような柔らかい映像は、まるで恋愛映画のよう。
「ほえぇぇ――!」
 さくらは奇妙な叫び声を上げた。顔が真っ赤になり、抱えた頭のてっぺんからは湯気が立ち上っている。
「なななななんでぇ――!」
 巨大な画面へ向かい、大声で突っ込みを入れる。
「さくらちゃんの寝顔も超絶可愛らしいですが、李くんもステキですわね」
 隣に座った知世はいつものように優しい笑顔を浮かべている。しかし、見る者が見ればその背後に伸びている小悪魔のようなシッポが見えたことだろう。
「だって! え? 知世ちゃーん!」
 顔を朱に染めたまま、さくらは恥ずかしさと情けなさが入り交じった声を上げる。
「いつ撮ってたの…、これ」
「先日のテスト期間に。ケロちゃんに伺ったら図書館へ行っていると聞いたものですから。
 そこへ向かう途中ですわ♪」
 知世はやはり笑顔を崩さず、しれっと言ってのける。もしかすると、シッポだけじゃなく可愛い羽根や角も見えたかもしれない。
「はぅ――……」
 両手でリンゴのように赤くなった顔を押さえる。
 胸中に甦るあの時の恥ずかしさ。しかもそれがこんな形で残っているから、彼女の羞恥心は殊更煽(あお)られてしまう。さくらの頭はパニック寸前だった。
 知世の性格からすると「消して」と頼んでも、上手くかわされてしまうだろう。特にこういう事に関しては。何よりその時のことを本当に嬉しそうに語る知世の表情を見ていると、さくらにとっては頼むことさえ躊躇(ためら)われるのだった。
「さくらちゃんは好きな人の寝顔を見たいと思ったことはありませんか?」
「え?」
 唐突な質問。
 思わず振り向いたさくらは、しばしダウンライトと目線を合わせる。
 思い出される小狼の寝顔。赤ん坊のように無防備で、いつも見る彼とは真逆の表情……。
「……………………ある、かも」
 俯き、小声で答えるさくら。チラッと上目遣いで知世を見る。顔の熱は引いていない。
「……クス」
 黒髪の少女は優しく柔らかく微笑む。彼女の質問は少年の心境に加え、自分自身の心境をも表していたのだ。
 さくらの手を取り、自分の両手で包み込み告げた。
「……私も、ですわ」
 知世の羽毛のように柔らかい声に吊られ、さくらが顔を上げる。
「勝手に撮影してしまったことはお詫びいたします。でも」
 聖母のような目差しでさくらを見つめ、
「李くんは決してさくらちゃんの寝顔をヘンに思ったりはしてませんわ」
 知世の言葉の端々に自信が感じられた。
「だって李くんがさくらちゃんの寝顔を見たときの気持ちと、さくらちゃんが李くんの寝顔を見たいときの気持ちは同じはずですもの」
 そう言いながら知世は素早く大画面へ目線を移し、同時にリモコンを操作する。
 映されたのはさくらの寝顔。
「わっ!! と、知世ちゃん!」
「さくらちゃんの寝顔はあんなに可愛いのですから!!」
 力説する知世。彼女の顔がキラキラ輝いているように見えたが、それはあえて見なかったことにする。
 続いて場面が切り替わり大写しになる小狼の寝顔。いつもの表情が大人びているだけにこういう時の彼の表情はとても幼く見える。
 思わず微笑まずには、抱き締めずには居られない表情(かお)。母性本能をくすぐられるとはこういう事を言うのだろうか。
「……うん、そうだよね……」
 さくらの表情が柔和に綻んだ。
 こんな表情の小狼を見てみたい。さくらは素直にそう思う。
「……………………(そうですわね…………でも)」
 一人画面を見つめるさくらをよそに知世は小さく小さく呟いた。
「この分だと、さくらちゃん自身が本当の李くんの寝顔を見られるのは大分先になりそうですわね」
 知世はさくらに聞こえないよう小さく小さくため息をつく。
 それは残念でもあり、ちょっぴり幸福の入り交じった吐息……。
 ふんわり微笑んださくらは知世の心中などつゆ知らず、画面に映る小狼の幼い寝顔を見つめていた。



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