「朱い色って卑猥だなあ…」
ころころと苺を指先で弄んだ家康のまろやかに間延びした声の裏側にはベタベタいやらしく甘ったるい誘惑の色が潜む。
いやいや金色の目にこそ雄弁かもなあと綱吉は思い直し、あのキンキラに光る目と髪をもったあんたのが卑猥だなあと割と心の底からうんざり思いながら、鬱陶しく目を歪めてバサバサと資料をめくっていた。文字はイタリア語で辛い。眠いし。しょぼしょぼする目をごしごしと擦る。
だから反応が一瞬遅れたのか。影が差した途端綱吉の唇にぷちゅっと祖父の唇がくっついてしまっていた。うわ、やられたなあと負けた気持ちになりながら、なぜか、いやに白い瞼だなって思ってそんなことに傷ついた気持ちになって、…でもさらりと金色の髪が流れそぅっと離れいくと共に開かれていく金目がするする細まって微笑む顔は本当殴ってやりてえーって思わせたのでそんな気持ちはやっぱり嘘だなあ絶対俺この人のせいで傷つかねえよって綱吉は強く思って、大変腹の立つ笑顔に対して全力で強く笑い返してやった。間近にせまる顔はやっぱり綺麗だけれど嫌い。飼い主の関心を得て喜ぶ愛らしい猫のしてやったり感漂うにゃあんという…くるくる尻尾ふりまいた…。うん、ほんと、殴ってやりたいね!目の下がひくひく戦慄いた。ぺかーっと笑う家康に、一語一語区切ってスタッカートたくさんきかせて盛大に大声で言ってやりたいくらいに凄まじくイラぁっとした綱吉は。にこやかに。ごしごし唇を乱暴に袖口で拭う。そんな綱吉をころころ愛しく微笑む家康の顔は綺麗なだけにやっぱり苛立たしい。孫を常識踏み倒して溺愛する家康は其の赤色より卑猥な思考の生き物だ。うふんと笑って指先に摘まんだ苺を綱吉の口の中に放り込む。甘く酸っぱい果実の赤色が卑猥なのか。それを卑猥というひとが卑猥だろうな。またちゅっと唇を食んできた。
かまって、かまって。金色のにゃんこがいる。すごい年かさなのにな。綱吉は溜息吐いてとりあえず、あとでねっていって、耳たぶを齧って首に絡む両手をつねってほどいた。
苺 ( 鮮やかな誘惑 )
◆ 言の葉のかけら ◆
title by 『capriccio』
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