香港の夜。 涼子と泉田は、阿部と貝塚とともに夕食を済ませホテルに戻った。 今夜の涼子は絹糸の赤のロングチャイナドレス。見事な鳳凰の縫い取り刺繍が入っている。 部屋まで送ってきた泉田を前に、何か飲み物のルームサービスを頼もうと、 深い深いスリットの入った足を高々と組み上げて、物憂げにリストを繰っている。 その後ろには、天井まで届く窓と見事な夜景。 泉田はネクタイを緩めると、しばし窓の外の景色に心奪われた。 摩天楼が映し出す灯りに煌く湾の金波・銀波の眺めは見事で、飽きることがない。 そんな泉田に気がつくと、涼子は拗ねた口調でたずねた。 「 (ねえ、お勧めを言ってみて)。」 「警視、私には中国語はわかりません。」 泉田は困惑した表情でそう答えると、涼子の隣に腰をおろした。 涼子はにやりと微笑むと楽しげに続けた。 「ふ〜ん、わかんないんだ。 多少銭?(これいくら?) 。(おめにかかれてとてもうれしいです)。」 「…わかりません。」 泉田の困った顔を前に小首をかしげて、涼子はひとつ咳払いをすると少し緊張した面持ちで言った。 「じゃあ…!(結婚しよう!)」 「・・・まだ早いんじゃないでしょうか。」 即答。 どういうこと?涼子は驚きで目を丸くするとともに思わず声を荒げた。 「わかってるじゃない!?」 「何がですか?」 シラを切る涼しげな泉田の表情に、涼子はぎゅっと唇をかんだ。 泉田はあわててその口元をそっと指で押さえた。 「悪い癖ですね。傷になります。」 涼子がはっと表情を緩めると、泉田は苦笑いで涼子の肩を抱き寄せた。 「すみません。怒らせるつもりはありませんでした。 あなたについていこうと思うと、色々な国の言葉を勉強せざるを得ないんですが、自信がなくて。」 そして、間違っていないと思うのですが・・・と少し不安げに、でも優しく耳元で囁いた言葉は。 ―― 何があっても、あなたを愛しているから。 (お幸せに!) (アンケート2位:チャイナドレス) |
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