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お礼の小話はChaoticCycleの一種類です。






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いつもの4人が揃った、放課後の数学準備室。

「茂木先生、よかったら食べてください」

渡部がそう茂木に差し出したのは、きれいにラッピングが施され、いかにも手づくりらしいマフィンだった。茂木はパソコンに向けていた顔を上げ、一瞬きょとんとした顔をした後「ありがとう」とマフィンを受け取った。

「でも、どうしたんだ、これ」
「昨日、妹に手伝わされたんです」

ほとんど作ったの俺でしたけどねと言って笑う。

「よし、渡部の数学の成績を5にしてやろう」
「…ありがとうございます」

そんな裏工作をしなくても、数学の成績が学年首位の渡部が5段階の成績で5以外をとるはずがないのだが、とりあえずお礼を言った。
そしてりぼんを解き、マフィンを口にした茂木が心底しあわせそうな顔をして「うまい」と言ってくれたので、渡部がプレゼントしてよかったなあと思っていると。

「渡部、ちょっと?」

笑顔で手招きをしている新條がいた。

「? なに?」

茂木が今仕事をしている机は、新條からいちばん離れたところにある。新條に近付いてこられたら茂木が気の毒だと思った渡部は新條のところまで歩み寄った。近くに寄ると、新條は笑みを浮かべているはずなのに目が笑ってなくて、渡部が「あ、まずい」と思ったときにはすでに遅かった。

「俺の分は?」
「……は?」

手を差し出されても、余ったマフィンはひとつだけだったので茂木にあげる分しか持ってきていない。

「いや、ないけど」
「殴っていい?」
「なんで!」

慌てて渡部は弁解する。

「だ、だって茂木先生、甘いの好きだし」
「言い訳は聞きたくない」

理不尽だと渡部が泣きそうになると、目の前にコーヒーが置かれた。

「あ、ありがとうございます」
「渡部、餌付けはあまり関心しないなあ」
「ええ!」

さらに春日にまで責められたようで、渡部はますます泣きたくなった。しかし、餌付けの意味がよく分からないし、新條と春日が甘いものが好きだと聞いたこともない。責められる理由が思い当たらない渡部は、何かを言うと墓穴を掘るのではないかと不安になり、ただ震えることしかできずにいた。

そしてそのころ。
渡部からのプレゼントを完食した茂木がひとり「餌付け…」と誰にも聞こえない声で呟いていたのだった。



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「なんですか、これ」

翌日、春日が数学準備室に訪れると、中央のテーブルには高級そうな箱が置かれていた。

「知らねえの?」

ゴディバだよと、茂木が自慢げに答えた。そして箱を開けようとした春日に「触んなカス」といつもの罵言を浴びせた。

「まさか、餌付けですか?」
「ち、ちがう!」
「……今、普通に引きましたよ」
「うるせえカス!!」

図星だったらしく(というかそもそもこのチョコは新條への餌付けとしか考えられないのだが)、茂木は顔を真っ赤にして怒った。餌付けのために、こんな高級チョコを用意するなんてどれだけ本気なんだと春日はため息を吐く。

「高かったでしょうに」
「愛は金で測れないけどな」
「……」

春日の全身に鳥肌が立った。

「あ、そうだ」

しばらくして鳥肌のおさまった春日は、休憩室でもらったたまごボーロの存在を思い出し、白衣から取り出して茂木に手渡した。

「これ、どうぞ」

たまごボーロはこどもが食べる離乳食としての印象が強いため、馬鹿にされたと茂木が怒るのではないかと思ったが。

「あ、俺これ好き!」

わりいなーと嬉しそうに満面の笑みで受け取ってくれた。

確かに、愛は金では測れないのかもしれないと、春日はそんな薄ら寒いことを考えた。



そして渡部と新條が遅れてやってきて。

「渡部、なんか嬉しそうだね?」

始終にこにこしている渡部に春日が尋ねる。

「そうなんですよー。今日、初めて購買の一日3個限定の海老カツパンを食べられたんです」

新條が買ってくれて、と嬉しそうに言う渡部に「ああ、ここでも餌付けが成功されている…」と感慨深く思う春日だった。


(ちなみに、ゴディバのチョコは4人でおいしくいただきました。)






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