文次郎はふと、青い空を見上げた。

 学園の野外演習でやってきた、とある合戦場。身を隠すためにこの大木の葉の陰で、眼下で繰り広げられる争いに溜め息を吐く。

 ああ、早くこの殺伐とした空気の中から逃げ出したい。

 人はなぜかくも争いばかり繰り返すのか。己の飯の種であるとは言え、出来ることならば関わりたくもない。

 ふとした瞬間に考えるのは彼のことばかり。



 伊作。



 学園に戻ったら彼はきっと一番に自分を出迎えてくれることだろう。そして笑ってこう言う。

「おかえり」

 その後少し心配そうな顔をされる。自分をゆっくり上から下まで視線をやって、こう言う。

「怪我はない?大丈夫だった?」

 そうしたら自分はきっとこう答える。

「大丈夫だ」

 多少の擦り傷などは怪我のうちにいれていないから。ただし、彼にとっては見逃すことのできないものだろう。

 少々強引に保健室に連行されるに違いない。

 保健室に行って二人きりになったら彼は少しだけ目を赤くして、それでいつもの笑顔でこう言うだろう。

「君が無事に帰ってきてくれてよかった」



 自分はきっと彼を抱き締めてしまうのだろう。そして、やっと告げる。

「ただいま」



 こんなに人を好きになったのは初めてかもしれない。彼の傍にいたくて仕方なくなる。

 早く彼を抱き締めたくて、彼の笑顔が見たくて。



 文次郎は再び空を見上げた。

 今すぐにでも彼の元へ行けたらいいのに。



 そう、あの鳥のように。




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