オリジナル【戦記】





常日頃、異世界だったり学校だったりで騒動を起こすTHE後継者チームもいつもいつでもあんな調子ではなく

普通の学生らしく、のんびりした日もあるわけで


これはそんな珍しく和やかな日曜日の話









必然を呼び込む偶然により









「あー疲れた!」

「・・・流石に休日は人が多いわね」

ぐったりと友梨と糜月が座り込んだのは、二人の行きつけの喫茶店
レトロな雰囲気漂う喫茶店は、今時のシェイクやジュースなどは置いていないが、マスターのお勧めコーヒーが絶品だ

おまけに付け合わせで選べるスコーンも、菓子にうるさい友梨が絶賛するほど


「いらっしゃいませ、お久しぶりですねぇ」

一人しかいない馴染みのウェイトレスに、二人は曖昧な笑みを返す

――――まさか異世界でドンパチ繰り広げてたんです、とは言えまい



「御注文は」

「お任せで」

「本日のホットチョコレート!」

お馴染みの注文にウェイトレスは笑みを深めて、踵を返した


ちなみに糜月の頼んだ『お任せ』は、客に合わせてマスターが勝手に選んでくれるというもの
これがまたその時の気分にピタリと合うものだから、やめられない

友梨のホットチョコレートは、なんと毎日微妙にチョコレートの味が違うのだ
甘いモノ好きで飽きっぽい友梨に、まさにぴったりのメニュー


先んじて出してもらったお冷を煽り、一息ついた二人は揃って視線を足もとに落とす
二人とも紙袋がそれぞれ三つ四つほど置かれている

「・・・・・・やっぱバーゲンは、キツイ」

「まぁおかげで良いものが安く買えたんだから、よしとしましょう」


片や食と音楽、片や本しか頭にないようで、その実二人とも着る物にこだわりもあれば、お洒落にも気を使う普通な面ももっている

まぁ常日頃非常識な面で隠れてはいるが一応年頃のオンナノコ、というわけだ



「お待たせしました」

「お、待ってました!」

「・・・・・・相変わらず、良いセンスしてるわ、マスター」

伝えておきます、と笑うウェイトレスに軽く会釈して二人は一緒に頼んだ菓子をつまむ
仄かに甘い味が口の中に広がった―――どことなく懐かしい味がしたのは、気のせいだろうか

しばしの沈黙

聞こえるのはクラシックとコーヒーを挽く音


未だ二人でいることが多かった時には当たり前の沈黙が、どこか物足りなく感じられるのは騒々しいのに慣れてしまったからか

なんとなく沈黙する二人に、声がかけられる


「今日は珍しく静かですね」

「「マスター」」

視線を上げると、30代半ばか―――いや、見ようによれば20代にも40代にも見える、不思議な雰囲気をもつマスターが微笑んでいた


「や、なんか最近騒がしいのに慣れちゃって」

「落ちつかない?」

くすりと笑うマスターに、友梨も糜月も笑って頭を振った

「や、ここの静かな雰囲気も好きだけどねー」

「ただ久々過ぎて、少し物足りないです」

良いことですよ、と彼は笑う


「友人がたくさん増えるのは、いいことです」

揃って頷く。否定する要素もない

再び戻ってきた沈黙を破ったのは、友梨だ


「ところでマスター、もしかして新しく誰か雇った?」

と言って掲げたのは一枚のクッキー

「この新作、マスターのでもウェイトレスさんのでもないでしょ」

ニンマリ笑うと、マスターは二コリと笑って

「流石、お目が高い」

「というより脳の栄養が味覚に回ってるんですよ、友梨は」

「失礼な!で、実際どうなの?」

「実は先日バイトを一人、これがまたお菓子が上手くてね」

さっそく評判なんですよ
と笑って厨房の方へ視線をやり


「スミカ君!」

おそらくバイトであろう彼の、名を呼んだ・・・が

なんという偶然、あるいは必然であろうか



「はい!なんっすか!」

顔を出した件のバイトは、そりゃぁもう見知った顔だった




「スーミちゃーん!!!」

「あら」

よっと手を上げる二人を視認した瞬間、何とも言えない呻きが澄火から洩れた

おや、と目を見張るマスターとウェイトレスに糜月が説明する


「同じ同好会のメンバーなんです」

あぁどうりで、と得心のいったマスターとは対照的に、納得がいかないように澄火は頭を抱えた


「お前ら、なぜここに」

「だってここあたしと糜月お気に入りの店だもーん」

でもマスターのコーヒーにウェイトレスさんの笑顔、スミちゃんの菓子がそろえば最強だね!


「新入り共々、これからも御贔屓に」

「もっちろんですよ〜!というわけでこっちでもヨロシクスミちゃん!」

誰が、と言いかけた澄火だったが、バイト中であることを思い出し

「・・・よろしくお願いします」

不本意そうに――しかし本当に嫌がっていないことは、二人にはお見通しの顔で――頭を下げた



まさにその時

「あれ、なに、みんな来てたの?」

「あらまぁ」

「・・・ここまで偶然が重なると、逆に何も言う気が失せます」


柊一、哀禾(姫)、愛菜(委員長)とこれまた見覚えのあるメンバーが
さらにその後ろでは

「おーユーリに糜月!ぐっうぜん!」

「ひ、久しぶり二人とも」

些奈にふーちゃんこと冬樹の従兄弟コンビまでが揃っている


一気に客が8人に増えた喫茶店には、一気にいつもの騒がしさが溢れた



「やーふーちゃん連れて映画見に言ってたらさーそこでばーったり姫と委員長に会ってね!」

「どこかでお茶でも、ということになったのですが」

「そこへ僕が通りかかって、新しいスミのバイト先に行ってみようってことになって」

「来ちゃいました・・・押しかけてごめんね、スミくん」

「あまり騒がしくするつもりはなかったのですが・・・」

「や、ふーと委員長は悪くねぇよ
・・・・・・悪いのは毎回毎回人のバイト先に出没する、コイツだ」

しかしスミの睨みなどどこ吹く風で、柊一は


「あははは、心外だなぁ。お客を増やしてあげてるんじゃない」

「・・・ったく、どうやって突きとめてんだか」

「知りたい?」

「知りたくねぇ!」

いつものやりとりが、ひとしきり笑いを誘う

この恐ろしいまでの偶然の巡り合わせに、友梨が半ば冗談で



「後ここにハクがいればねー同好会チーム大集合な「いるぞ」


瞬間、全員が一斉に振り向いた

友梨より頭1つと半分高い位置に、件のハクの、いつも通りの無表情があった


「・・・・・・いつの間に」

糜月の問いに、彼は簡潔に

「最初からだ」

答えた


曰く、友梨と糜月が来た時にはもういたらしい

「や、だったら声くらいかけてくれたっていいじゃん!」

「タイミングを計っていた、が、声をかけないならかけないでいつまで気づかないか試してもみたかった」

「・・・・・・ハクって、たまに妙なことするよね」

「そうか?」

そうだよ、と柊一を筆頭に一同が頷く


と、ひと段落したところで

「それで皆様、ご注文は何になさいますか?」

マスターの合の手が入る
一斉にここが喫茶店であることを思い出したようで、メニューもないのにどうしようかと考えだした


「ちなみにお勧めは『お任せ』だ」

「新入りバイトスミちゃんの作ったお菓子もご賞味あれ〜」

さり気ないハクのフォローと、何も考えてない友梨の発言に一同それぞれ注文を決めると、思い思いに席に着く

委員長と哀禾は糜月と友梨のテーブルへ、冬樹はハクのテーブルへ座った
――――ちなみにハクの席は、なんと二人の真後ろだった

柊一と些奈はテーブル正面のカウンターに座る
テーブルがないわけではなく、単に厨房にいる澄火に茶々を入れるためだ

ある意味それぞれ、らしい位置である



「・・・っていうか、結局休日もこのメンバー?」

代わり映えがねぇ!と友梨が叫ぶとそりゃこっちのセリフだ!と澄火が返す
哀禾と委員長がマスターに出された紅茶について尋ね、糜月は外に視線をやってコーヒーに口をつける

ふーちゃんはハクと茶を楽しみつつ本について談議し、カウンターでは柊一と些奈が澄火に細かく菓子の注文を付けている
澄火は何だかんだ言いながらも、しっかりと注文に応えてウェイトレスがそれを見て楽しそうに笑う


あっというまに静かな喫茶店は、第二の同好会部室状態に



・・・・・・こんな偶然って、ありかしら

そういいつつ、嫌いではない喧騒に糜月はふっと笑みをこぼした


と、ある一点を認めて目を見開く


「・・・・・・ここまで来ると、このメンバーが揃うのは偶然というより」

必然ね


どこかの自分勝手な神様が何かしているのか、それとは類は友を呼ぶか、それとも星の巡り合わせか
なんなのかはわからないけれど



「ねぇ」

―――どうやら偶然はあと一つ、重なったようよ


とりあえず、この歓迎すべき偶然もしくは必然にのることにしましょうか




指さす先に覚えのある後輩二人を見つけ、連れてくる!と飛び出したのは友梨が先か些奈が先か

ともあれさらに賑わしくなりそうな予感、もとい確信を抱いて糜月はもう一口、コーヒーを啜った





どこか落ち着く味は、この空間に似ていた








拍手ありがとうございました! 返信はブログにて
ネタ切れしてきたのでリクエスト募集中(笑)

奴らの普通?の高校生ですから
たまにはのんびり、こんな日もあります

ちなみにこのあとこの喫茶店は、奴らの行きつけになりました
席順も最初のまんま、他のお客さん入りにくい!(笑)

早くこのワイワイ感が本編でも出せるよう、頑張ります!



拍手ありがとうございました!何か一言あればどうぞ!

あと1000文字。