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郭荀

「せんぱ~い。お見舞い、ありがとねー」
郭嘉はベッドから起きようともせず、病人らしくない笑顔で荀彧を出迎えた。
「なんかこう、風邪?みたいな感じで」
「別にいいよ。お前がいなくても、今のところ組も平和だし。それからもう、二人だけのときだけってこっちもわかってるけど、いい加減先輩ってやめてくれないかな。いつまで学生気分?今、お前大学何年生?」
荀彧は郭嘉の額を触った。確かにたいして熱はなさそうだった。
そのまま一つデコピンを食らわすと、郭嘉は「いてっ!」と顔を顰めた。
「ひどいよなぁ。一応ね、俺、病人なんですけど」
「それだけ元気なら大丈夫だよな。もっと重篤な病かと思った」
「せ…文若、それ心こもってないし。全然心配とかしてないでしょ。もっとさ、優しくしてよ」
郭嘉は笑いながら、ベッドの横をバフバフと叩いた。
「はいはい、ここに座って!何もないけど、ごゆっくり!」
しぶしぶ、荀彧はベッドの脇に腰を下ろした。
郭嘉の住居は、本部に程近い2LDKのマンションだった。荀彧のマンションからもそれほど離れていない。
二日ほど「熱があるので休みます」という簡単な電話連絡をもらっていた荀彧だったが、三日目には連絡がなかったので、どんな様子か確認に来ただけだった。
見舞いという感覚は、荀彧の方にはない。
「これだけ元気で、電話もかけられないわけ?」
「ん~。まぁ、昨日の今日でわかってくれるかなぁと思って」
「そういうのは、社会人としてどうかと思うけど」
「そーだねー。っていうかね、今日電話したら、受付で長文が出るでしょ?あれがね、イヤだったんだ」
「子供か、お前は」
呆れて苦笑してみて、荀彧は小首を傾げた。
郭嘉は陳羣と性格的に合わないように見えて、それなりに仲が良いとばかり思っていたので、陳羣が受電するだけで嫌がるなどおかしな話だと感じたのだ。
「長文と、何かあった?」
郭嘉は大きな溜息を一つして、鼻の頭を指先で掻いた。
「あったというか……昨日さ、ここに来てくれたんだけど。ちょっと俺も熱が下がって元気だったってのもあるんだけど。まー。なんていうのかなぁ。ついでにいい仲になっちゃおうと、手をつけようとしてさ。キスくらいはしたことあるからイケるかなぁと思って。そしたら、全力で嫌がられて、殴られちゃって。散々俺のこと罵って、走って帰っちゃった」
悪かった、反省しているといった殊勝な口調ではない。郭嘉らしいと荀彧はつい笑ってしまった。
陳羣には申し訳ないが、そういった手の早さも、デリカシーのなさも含めて郭嘉である。そんな男の部屋を一人で訪問して、何もない可能性は50%より低いはずだと気付かないのだろうか。
頭がよくてもその辺までは気が回らないとは、うぶにも程があると荀彧からしてみれば呆れてしまう。
「それはまぁ、殴られてしかるべきだろうな」
それでも弱い方の肩をもって、荀彧は形式的に郭嘉を窘めた。
「殴られても、そんなに痛くなかったし。べつにそれくらい、どうってことないんだけど。…なんか、むこうは気まずい感じになるでしょ。俺がヘラヘラしてても怒るし、神妙にしてても気にするって予想つくから、面倒臭くなっちゃって」
「だからといって、それが連絡をしなくてよいという言い訳にはならないと思うけど」
「だって、連絡しなかったら、文若が来てくれるでしょ?」
郭嘉はベッドから体を起こした。
そして荀彧にキスをした。
荀彧は一瞬、郭嘉を押し退けようかと思ったが、考え直してキスを受け入れる。
数ある女の愛人でもなく、もう一度陳羣を呼び出すわけでもなく。敢えて自分を選んだ郭嘉の、多少の弱り具合が愛らしかったからだ。
郭嘉のキスは上手だった。夏侯惇のそれとは違う。優しくも情熱的な舌使いが好きで、何度も絡めあった。
「長文の代わりってわけじゃないけど」
キスの合間に、郭嘉は語りかける。手も早い。スーツのジャケットは既に床に落とされている。
「文若のことも、好き」
「やりたいだけだろ、それ。お前が俺のこと好きとか、気持ち悪い」
「でも、好きじゃないとやらないでしょ。男と」
「それなら、お手頃ってことにしておいて欲しいんだけど。お値段以上ニトリ的な何かでいいから」
何度か寝たことがあった。お互いに気楽な相手だから、というだけで、恋愛感情はなかった。
少なくとも荀彧にはない。
郭嘉の口内は歯磨き粉のフレーバーで、奇妙なすがすがしさに笑いが出る。
「冷たいなぁ。少しは恋愛してるっぽい雰囲気とか出してみてもいいじゃん。でもまぁ、そこが、いいんだけどね」
郭嘉は知っている。荀彧はモラルに一番うるさいように見えて、そうではない。
公私に渡って発言が的を得ているのも、常に現実的に最優先事項を考えているためである。もちろん生き方に対する理念は持ち合わせているので、揺らぎがない。不利益になることはしないし、損をする関係も結ばない。
要するに郭嘉とのこの関係は、荀彧にとって「悪くない」部類なのだ。
郭嘉は荀彧をベッドの中央へ引きずり上げ、そのネクタイを緩めた。首筋に唇を這わせながら、シャツのボタンを外す。
荀彧は郭嘉のスウェットを捲り上げた。郭嘉は頭をくぐらせて脱いでしまう。
「何回やっても、いいよねー?」
「一回にしとけよ、バカ」
覆いかぶさる郭嘉の腰に手を回しながら、荀彧は苦笑した。
「一回だと、収まらないかも。ほら……すごいことになってる」
郭嘉は硬くなったものをぐいぐいと押し付けて、荀彧の乳首をペロリと舐めあげた。
「……大事に、残しておけば、いいだろ。他に出すところも……あるわけだし」
相変わらず丁寧で執拗な前戯に、荀彧は言葉を詰まらせた。既に右手は股間へ下り、パンツ越しに立ち上がりかけたペニスをなぞっている。
唇と舌が乳首を愛撫し、左手は右の乳首を押し揉んでいた。
「ほう、こ……っ、ちょっ、と……全力すぎ!」
「でも~。気持ちいい方がいいじゃん」
悪戯めいた笑いを浮かべ、郭嘉は荀彧の体を堪能した。
余裕を失ってしまうのが嫌だな、と荀彧が思い始めたとき、チャイムが鳴った。
マンションエントランス前のチャイム音。
「……誰だろ?」
「長文……と、思う。出ろよ」
郭嘉はしぶしぶ荀彧の体から離れて、インターホンのところへと歩いていった。
荀彧は溜息して体を起こすと、ベッドから降りてシャツのボタンをとめていく。投げ捨てられていたネクタイを拾い上げて手早く結っていると、郭嘉がリビングから戻ってきた。
「マジで長文だった。手土産提げてそわそわしてたんだけど。とりあえずエントランスのドア開けちゃった」
がっかり感と高揚感の狭間で、郭嘉は泣きたいような笑いたいような、どうしようもない気持ちを伝えきれずに荀彧に抱きついた。
「俺さぁ。長文とやっちゃっていいのかなぁ。たぶん、今日はやる気で来てるんだろうな…って感じだった。でもさ、なんていうか、やっちゃうとあいつメロメロになるかもだろ?潔癖だし、浮気とか半端なく許さなそうだし。そんな夫婦みたいな関係になるのは、嫌なんだけど」
「じゃあ、しなければいいだろ。もしくは話し合って、お互いに干渉し合わないようにするとか。それから放してくれると助かるんだけど。ついでに俺のジャケット取って」
バカじゃないのに、どうしてこう単純なことで悩むのだろうと、荀彧はまた呆れて嘆息した。
郭嘉はこれ以上ない正論に肩を落とした。名残惜しい荀彧の体を放し、落ちていたジャケットを取ってやった。
荀彧がジャケットを羽織って、クローゼット前の鏡で身づくろいを確認する間に、郭嘉自身も脱いでいた上着を着て、もぞもぞとベッドにもぐりこんだ。まだ股間の膨らみが収まっていない。
「じゃあ、帰るついでに、長文を出迎えておくよ。あとは二人でごゆっくり」
涙目の郭嘉の頬にキスをして、荀彧は微笑んだ。
「その笑顔、悪魔に見える」
「お前らしくないよ、奉孝。最後まで楽しめばいいんじゃない?」
「すげぇ他人事っぽいよ、それ。……ひどいなぁ」
ぼそりと呟く郭嘉を残して、荀彧は寝室を出た。時を同じくして、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
今、郭嘉の動悸が跳ね上がっただろう。陳羣はどんな顔をしているだろうか。
二人の様子を想像して噴出しそうになるのを堪え、荀彧は玄関ドアを開けたのだった。







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