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現在お礼はBLEACH3種、D.Gray-man2種です。
【BLEACH 修→ルキ】
夜は人を開放的にさせると修兵は思う。普段どれだけつれない態度をとる女性も提灯や燭台の下で囁いた誘いは断らないし、昼の戯れを、愛の言葉を本気にして擦り寄ってくる様は猫に懐かれたように愛らしくもあり、炎に映し出された光の下では見ることの出来ない欲望に、知らず優越感をも覚えてしまう。毅然とした態度の女傑が処女のように初々しく、花街の遊女のように艶やかな声と瞳で持って差し出される、心なるものに男が抱く情動はきっと理解しがたいものだと内心で笑い、半ば無理矢理に連れ出した赤毛の後輩の意中の君になるべく「綺麗」な笑みを見せた。そこには奥手すぎる後輩への後押しとともに、ほんの少しの二心がないとは言い切れない。何せ後輩の思い人は背こそ低くて体型はまるで幼児だが、その顔立ちと雰囲気は一流と呼ばれる花魁でさえ滅多に出すことができない、高雅な気品や風格といったものが漂う相手なのだ。無碍なことをするつもりもないが、戯れだけでは危険だと、これまでに培った経験則の理性と本能が警鐘を訴える。つまりはそれ程の相手なのだ。
「何故私を連れだしたのですか?檜佐木先輩ほどの方なら幾らでもお相手がいるでしょうに」
最初の一杯を飲み干したまま、二杯目に口を付けないルキアにお猪口を差し出し、受け取ったのを確認してから互いの杯を重ね合わせる。ルキアがどれ程いける口かは知らないが、少なくとも修兵の方は熱燗の一本や二本で酔うような体ではない。
「俺だって静かに飲みたい時くらいあるんだぜ。でも一人だと味気ねえし、見たら朽木が一人でいたからな」
嘘を吐く時は小さな本当を混ぜるのが良い。嘘が大きくなればなるほど、そこに混ぜる一匙の真実が重みを増して荘厳華麗な虚飾の壁を作る。今まで誰一人として疑ったことのない、それが檜佐木修兵の持つ処世術と言う名の技術の大元。
「嘘ですね」
呆気なく一言だけ口にして、ルキアはその場を立ち上がった。酔いの欠片もない、完璧な姿勢と挑むような、見ようによっては嘲りにも見える絶妙の角度でルキアは口の端を持ち上げた。
「蝶と毒蛾を間違うとは、今宵檜佐木先輩は余程酔っておられたらしい。早めのお帰りをお勧めします」
死覇装の白帯が視界の端に消えるまで、修兵は微動だに出来なかった。嘘を嘘だと見破られたからでも、陶酔とは真逆の視線を向けられたからでもない。強いて言うなら、あの、深淵に程近い瞳の、さらに奥に刹那見えた、轟々と燃えさかる蒼い焔のような、あの激しさに。何もかも奪われたのだ。
「…おっかねぇ…」
(夜、魔物との邂逅、そして)
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