陸奥×貴方



季節は秋を告げ、山々は多色彩りを見せていた。


「悪いわね」

パンッ、パンッと小気味良い音で陽の光を浴びて白く輝く洗濯物を広げ、手際よく竿へ干してゆく。

横には額にうっすらと汗を浮かべたおこう。

『いいえ、おこうちゃん一人だとこの量はちょっと、ね…』

礼を述べるおこうへ微笑みを返してから、篭へと視線を移しそれを苦笑へと変える。

篭の中には大量の洗濯物。連日の雨のために貯めに貯め込まれた山盛りの洗濯物。それを一人で片づけようとしていたおこうを見かね手伝いを申し出た。

「ふーっ、これでようやく半分ね。残りの分洗ってきちゃうからあとお願いしちゃってもいいかしら?」

『うん、かまわないよ。任せて』

洗濯物を干す手を休めず笑顔でおこうを送り出し、一度ため息をつくと負担をかけていた腰を伸ばすように屈伸をした。

『よし、やるぞ』

そう気合いをかけて再度篭へと手を伸ばしたとき



「アンビリーバボーッ!!珍しいことやってんなぁ!明日は雨か!?」


突然背後からの天をつくような明るい声音に振り向くとそこには陸奥の姿。

『陸奥さん、どういう意味ですか。失礼ですから。』

陸奥の言葉にムッとし軽く頬を膨らませた。

「はっはっは、気にするな!大物になれないぜぇ?」
『なる気有りません』

膨らませた頬をため息に変えて再度篭へと伸ばした


『ひゃっ』

はずの手は掴まれて

「うわっ、なんだこれ!!すっごい冷てぇぞ」

大きく温かい手に包まれる。

『ちょっ、陸奥さん!?何を』

「お前なぁ!こんな手ぇ冷やしてたらダメだろ!仮にも武術を使う者なんだろ」

冷えた手をさする大きな手に、同じように冷えた頬に熱が集まっていく。

『仮にって、…そうじゃなくて!陸奥さんっ。もう平気ですから!』

いつも元気で、うるさくて、憎まれ口ばかり。

「あ?何だよ!俺が触ると嫌なのかよ」
『や、あのっ、そうじゃなくて!!』

「だったら何だよ!あ〜っ、冷てぇなあ」

顔を合わせれば人をおちょくるような高慢な態度。


なのに、こんなにもドキドキして止まない。

今まで彼に感じたことのない気持ち。

いとも簡単に包み込んでしまう大きな手をどこか愛しいと感じてしまって、くすぐったい気持ち。


『……陸奥さん』

「あ?まだなんか文句あるのかよ」


体温が混ざり合い、冷えた手も彼の体温と同じように暖かくなる。

『……ありがとう、ございます』

「え、?………ッ!?」

陸奥の頬も自身と同じように赤く染まって、おかしくて、嬉しく、彼へ微笑みを向けた。


「あ、た、たまたまだからなっ!!勘違いするなよ!?」





冷えた空気の中

暖まる手と心。




「ねぇ〜、量も量だし一旦休憩にしてお茶でも―――…あ。」

「え、……あ。」
『…あ。おこう、ちゃん』



「うわぁぁ!!違っ!!これはそんなんじゃねぇぞ!!」





そんな秋の話。






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