If ジェイド裏切りルート
























ブォン、風圧が鳴らすその音に俺は目をしばたいた。

たった一つの音さえ、発することが出来ない。

ぴちゃん、と水の滴り落ちる音に反応して俺は目が乾くくらい、なんども、なんども瞬きをしている。

ケセドニアの砂に吸い込まれるのは、血、だ。

真っ赤な液体が砂漠に吸い込まれて、黒々とした色に染まる。



「いやああああっ、!」



誰かの呼ぶ声に俺はようやく顔を上げた。

悲鳴を上げたのは誰だろう。

俺以外の誰か、俺と、ガイ以外の誰か。

だって。



「ぐ、っあ…!」



流れてる血、苦悶の声。



「ガ、イ……?」



今目の前で、みんなの目の前で、鋼の刃がガイの体を貫通している。

まばゆいほどの太陽に白刃がきらめいて、その上を真っ赤な色が染めていく。

誰の目から見ても、致命傷だった。

呆然として、誰もその場を動くことが出来なかった。

まさにこれから、最終決戦へ向かうためにケセドニアの地をたとうとしていたその瞬間の出来事だった。

誰も予測しえなかったはずのできごと。

この時点での敵の奇襲など、そもそもありえないと。



「案外、何の感慨も沸かないものですね」



それをすべて、この声が否定する。



ず、と深く埋められた刃を一層深くして、抉る。

同時に大量に流れる血、むせ返る匂いに膝が落ちた。

暑さのせいではなく、全身から汗が噴出して眩暈がする。

また崩落が始まったんじゃないかと思うくらい、地面がゆれてる。

ゆれてるのはおれだろうか、ぐらぐらと、定まらない。

それでも視線が離せない、離れてくれない。

俺の目は、ちゃんと正常な機能のまま、うごいているのだろうか?



砂塵を巻き上げ、ほんの一瞬だけそれを覆い隠す。

ガイを貫くのは、見慣れすぎるくらい見慣れていた、一双の槍だった。

それを操るのも、もういやというほど。

相変わらず表情の読めない、けれど張り付いたような笑みで。

確かに本人も零したように、何の感慨も、感情の無いような顔だった。

眼鏡の奥の瞳は人形にはめ込まれたガラス球のように、まるで人間離れしている。

口元にわずかに刷いた笑みだけが、やけに滲む。



「さよなら」



薙いだ槍とともに、ガイの体が地面に倒れた。

悪い夢みたいに、そのときの音はどこか遠くに聞こえた。

同時にまた誰かの悲鳴が上がった。

甲高く、空に響く。

同時に波紋のように広がるものを、どうあらわしたらいいものか。

俺には分からない。

周りを取り囲むようにした軍人達でさえ、いまだ困惑の色を濃くしている。

けれどそれ以上に、ただ、恐ろしいと。

純粋に強大な力に対する恐怖が勝った。

いっせいに刃が強襲者にたいして向けられた。



「無駄なことはしないほうがいい」



あざ笑うように、言って。

まだ小さく呻きを上げるガイには見向きもせず、その視線は俺に向けられた。



笑顔。



「ねぇ、ルーク。今どんな気分ですか?」



こたえられない。

答えられない

応えられない

堪えられない。



どんな、だなんて。



「辛いですか、苦しいですか、痛いですか、それとも憎いですか?」



もうすぐまでやってきた気配に、俺は身をすくませた。

声も、出ないのに。

手を伸ばされて、触れられることを拒否できるはずも無い。





「私は、裏切ったんですよ」





わかりますね、ルーク。



そうやって、俺を呼ぶジェイドの声があまりにも普段通りだったから。





「ルーク」





俺はその手を、突っぱねることも出来ないまま。

わらうジェイドを、ただみていた。




















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