やはり、人を好きになって良い事なんか一つも無い。

だって、そうだろう?

貴方を好きにならなければ、愛さなければ…僕はこんなにも苦しい思いをしなくて済んだ。

それに…貴方だって。

あいつに手を出される前に。

貴方が、辛い思いをしなくて済むように。

手を、離して。


(ああ…死ぬの、かな…僕…)

我ながら、自分らしくも無いなと思う。

何時もはこれ位で弱る自分じゃない。

この水槽を割ってでも外に出ようとするのに。

きっと、本気の本気でこの水槽をトンファーで殴りつければ、きっと割れるかも知れない。

でも

(今水槽を割ったら、この子たちは…)

ゆらゆらと、行き場を失くして泳ぎ続ける小さな魚達。

あいつが言うように、僕と彼らは似ているのかもしれない。

終わりが見えない。

なのに泳ぎ続けるんだ。

…酷く滑稽で。

でも、それはそれでいいのかもしれない。

だって、このまま最後まで貴方の事を思って消えていけるのなら

(…こんな時まで馬鹿みたいだ、僕)

あれだけ忠告されたのに、まだ彼を思い続けるなんて。

きっと、六道が聞いたら呆れる。

でも、これは本心。

どうせこのまま消えるなら、貴方の気の抜けた笑顔を思い出して幾分穏やかな気持ちを持って消えたい。

(ねえ…ディーノ…)

最後位、名前…呼んであげれば良かったよ…。


―恭弥…


ああ、最後まで。

本当の最後まで彼を思い出すなんて。

きっと幻覚なのかな、それとも今だ彼の温もりが忘れられない?

きっと僕は、消えたいのに消えたくないんだ…

(ディーノ…手…)

ねえ、今度会えたなら、僕は。
貴方の為に、繋がれた手を離すから…。

だから今だけは…

(冷たいよ…ねえ…)

この冷たい水槽の中から僕を救い出して。



「恭弥…っ!」

「う…」

「おい、何があったんだ恭弥、しっかりしろ!」

「…っ!ゴホッ…っぁ」

「大丈夫か?!…お前…びしょ濡れじゃねーか…。一体何があったんだよ…?」

「何でも…っ、ない…」

「何でもないわけないだろ?!」

何時もより強い口調に、思わず少し肩が揺れる。

心配してるんだって、心から伝わってくる。

「…っ」

「黙ってたんじゃ何も分からないだろ?」

「…どうして…」

「え?」

どうして、そんなにも優しい瞳で僕を見るの。
どうして、そんな優しい声で僕の名前を呼ぶの。


「…貴方じゃなきゃ、ダメなの…」

泣きそうになりながら呟いた言葉は
貴方へのさよならの合図。





to be continued…









2008 7/2紫月美桜



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