壱『名付けられし、紫の上』 ※これでもSHだよ!他人エレロリミシャだよ!!平安だよっvV(なんだってぇっ!?) 高欄に寄り掛かり、満ちた月を肴にチョビリチョビリと杯を呷る。 喉を通り過ぎる液体が、心地よい熱を煽り、つい目元が和む。 ハァと熱を持つ息を吐き出すと、サラリと長い髪が風に遊ばれた。 我家に戻って来たのだからと、ピッチリと結い上げられていた髷は当の昔に解かれていたのだ。 サラサラと音をなす黒い髪には、結われると隠れる紫色の束が幾筋か流れている。 真っ黒な髪でなければ、妖とまで言われてしまうこの時世、この様な髪質、いくら珍しくとも嬉しくなどない。 それでなくとも紫の瞳まで持ってしまったのだ、これ以上の悪目立ちな外見は、不要だった。 そろそろ、塗り直しだなと思って思考に沈んだ瞬間。 「ぁ、の…」 ポツリと背後の部屋から声が上った。 ん?と首を傾げながらその声の主に視線を投げる。 「ほぅ、これは…」 うんしょと小さく掛け声を上げながら、紅い切り袴を歩き難そうに裁き、ズルズルと袿を引きずって現われた女の童に、感嘆の息を吐き出す。 可愛らしく調った支度だったのだ。 拾った当初は、酷い折檻をされていたのか、服も肌も見るも無残な有様だった幼き少女が、湯殿と服だけで此処まで変わる物なのか。 関心気味に思いつつ、彼女を湯殿に連行したこの屋敷に唯一控えている自分の乳母が、娘が欲しかったと話していたのを思い出した。 ここまでするのならば、この娘が本当に気に入ったのだろう。 後で、御礼をして置こうかと無言で思っていると、少女がもう一度あのと声を掛けて来た。 「如何した?」 「ぁの…」 心底不思議そうに首を傾げて問い掛けると、彼女がシドロモドロトとその先を躊う。 姿と相俟って可愛らしいその反応が、彼のなかで花を咲かせる。おかしい、自分にはそんな安らかな気持ちを持ち合わせていたのだろうかと考えていた矢先、相手が意を決した様に、瞳を合わせて来た。 「…私は、何をすれば良いですか?」 そうして放たれた台詞が余りにも、唐突なもので、彼は眉を寄せる。 「ぇと…私、頑張ります…頑張って貴方の捌け口になります…」 だから…と震えながら言い募る身体が震えている。 その時になって、彼は初めてソレに気付いた。 動きに合わせて揺れる髪は、月の光でさらに白さを見せる銀髪。 その所々に見え隠れする自分と同じ紫色の束と、紫の瞳が涙で揺れて、眩き輝いて。 幼い少女に、そうとは見せない輝きを作り出させる。 「………捨てないで」 そして、今の台詞。 なるほど、と思う。 噂に聞いた事はあったのだ、『そう言う趣味』がある物達の話も。そう言う趣味の公達(奴等)の為に、そう言う童を育て、『売る』商売がある事も。 つまりは、『そう言う事』。 この少女は、この容姿の為に捨てられ、いい様にされて、今まで息をしてきたのだ。 瞬間、湧き上がったのは怒りだった。 姿形がどうであれ、我らとて人の子だと言うのに。 このままではいけない。 彼は、無言で彼女の腕を引き、近くなった身体をヒョイと抱え上げた。 まるで羽の様に、軽い身体だった。 そんな事にさえも、彼はズキリと胸を痛ませる。 しかし、相手には悟られぬように、微かに微笑むと、その身体を自分の膝の上に座らせた。 ビクリビクリと震える身体が、『その先』の事に怯えているのが解る。 ただ一つ解って無い事があるとすれば、彼にその気が無いと言う事だけ。 「…そうだな。家族になろうか?」 「え?」 優しく優しく囁いて、軟らかい髪に指を滑らせる。 「まずは、名だな…俺は、紫狼(しろう)」 「し、ろう様…」 「そうだ、紫狼だ。でも様はいらない…呼ぶなら『紫狼』か『兄上』」 言ってご覧と首を傾げた紫狼に、少女はスルリと紫狼と言う。 てっきり敬称が来ると思っていた紫狼が、一瞬だけ瞳を丸くさせる。 他者から初めて呼ばれた名を、呼び捨てが悪くないと思ったのは、今が初めてだった。 「ああ、それでいい。で、お前の名は………………紫(ゆかり)は、どうだ?」 気分が良くなって、彼女の小さな額に、額をコツリと合わせる。 「…ゆかり」 「ああ…俺と『同じ』紫(むらさき)と言う意味だ」 どうだ?と、瞳を覗きこむと、名前と同じ紫色がユラユラと波打って、ついにポロポロと零れて落ちた。 その雫が落ちる先で、先程まで所在なさげに隠されていた小さな掌が、紫狼の深緑色の狩衣の胸元を掴んでいた。 不意に無言で頷いた紫に、破顔した紫狼は、寄せていた顔をそのまま小さい肩に埋めさせ、優しく身体を包み入れた。 これからもよろしく…我が妹姫 (別タイトル→輝源氏紫の上計画エレフver) 一応、紫狼→エレフ(16) 紫→ミーシャ(6) 平安時代の夫婦年齢差が、この位なのは当たり前。 この二人が夫婦になろうが、なんら、おかしくない年齢ですよ! ただ、妹として育てた他人と最終的にどうくっつくかが、気になるデショゥ!(ニヤニヤ 一応、四部作予定。 拍手、ありがとうございました! 御礼文は、フリーです。 感想があると嬉しいですが、強請じゃないです。 |
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