【 臆病者の幸福論 】 薄桜鬼:(土方→斎藤)→沖田

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八木邸の庭。そこで近所の子供達と戯れている大きな子供―沖田の姿は珍しいものではなかった。非番の日、暇を見つけては近所の子供達と遊ぶ姿は、とても微笑ましく思える光景だ。器用に独楽を回すその手が、容易く人の命を狩りとるものとは思えない程に。

「…副長、どうなされたのですか?」

そんな有り触れた光景をじっと見やる土方の姿は、いつもからはかけ離れていて、斎藤は思わず声をかけた。沖田からは見えているであろう縁側にぼんやりと立つ土方は、鬼と形容される常とは違い何だか穏やかな顔をして見えたからだ。

「…こうなっておいて何だが…総司には心穏やかに過ごして貰いてぇと思ってるんだ」

「…」

突然の話に、斎藤は土方と並んで沖田を見やった。庭先で何やら楽しそうに遊んでいる沖田は決して年相応とは言えない。けれど、その無邪気な笑顔はとても幸せそうに見え、土方は改めて素直にそう思ったのだ。沖田はその生まれながらの環境から、背伸びをしざるを得ない事が有り過ぎた。類い稀な剣の才は、幸か不幸か責任が付いて回るものだったし、それによって現状があると言っても過言ではない。もし、沖田の剣の才が多少なりとも今より劣っていたのであれば、沖田はあのまま多摩で道場師範として生きていけたのだろうと土方は思っている。剣の腕が立つから、と。置いて行かないで下さい、と必死に頼まれたからと言って、そう簡単に連れて来て良かったのかと思う事もあった。だが、今となっては沖田の存在は新選組には無くてはならない存在である。今更帰れとは言わないし、言えるはずもない。

けれど。

「あいつは減らず口も叩くし、可愛げもないが…弟みたいなもんだからな」

今が手放しで長閑だとは決して言えないけれど、少なからずゆるりとした時間であるのは確かだ。いつまで続くかわからないこんな時間くらい、年相応―駆け足で過ぎた童心に返って過ごして欲しい。せめて今くらいは、と。

「何が幸せかって言うのは人それぞれだと思う。だが、あいつには人並みの幸せってのを掴ましてやりてぇんだ」

こんな世界に引っ張り込んでからに何を言ってやがる、と土方は思う。切欠は自分ではないかもしれない。けれど、今の現状を作り上げたのは自分であると、土方は理解している。皆を引き摺り込んで首を突っ込み、引き返せない場所まで歩くそれの、先頭に立っているのは紛れも無い自分なのだ。



「…そう、ですね」

黙って話を聞いていた斎藤の、穏やかな声が返答を返す。その穏やかな声音に、土方は胸の奥がちりと痛んだ気がした。

「…勿論、お前もだぞ」

土方が隣をちらりと見ながら言うと、虚を付かれたかの様に目を見開いた斎藤は一瞬目を細め―それは確かに笑みを浮かべた顔で土方を見る。日の光を反射した藍色はとても綺麗だった。

「土方さんも、ですよ」

絡まった視線は一瞬だけ。どちらともなくまた目の前で戯れてる子供達と沖田を見た。はしゃぐ声の向こうに青い空が見える。澄んだそれが、沖田にはとても似合うと思った。

「言うようになったじゃねぇか…」



ふいに零れてしまった幸せのお裾分けみたいな土方の笑顔は、何処か諦めた様な笑顔だった。

少しでも動けば手が触れそう近い距離で、しかし土方は決して動こうとしない。暖かな風が二人の間を吹き抜けていく。土方の結い髪が、斎藤の首巻がゆるりと風にたなびいた。





すぐ隣にある幸せは、決して手に入らない。

感じる事が出来るのかもしれない程に近いそれは、触れてしまえば容易く壊れてしまう。

他人の幸せも全て巻き込んでその手を掴む勇気と言う身勝手さを、生憎土方は持ち合わせてはいなかったのだった。



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2011/02/08 皆川(ウチの土方も斎藤も恋愛後ろ向き過ぎるw)

終わりを知る恋に10のお題 >> 06:さわらないのか、さわれないのか



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