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また、以下、御礼・無題雑文(1/2作) 譲⇒望美みたいな。










 キリ、と張りつめた音をさせながら、譲は矢を引いた。
 ざわざわと騒がしく揺れる梢の音も、今の譲には聞こえない。目に映るものも、今は的と定めている大木だけだ。
 十分に弦を引いた態勢で一度静止し、呼吸を整えて矢を放った。
 風を切り裂く音をたてながら飛ぶ矢は、しかし突発的な強風に煽られわずかに進路を変え、大木を逸れて彼方に消え去った。
「あっ……」
 外れてしまった。そうため息をつきかけたと同時に、譲の耳に女の悲鳴が届く。
 幼い頃から聞き慣れたその声は……。
「先輩!?」
 譲は顔色を青ざめさせて、悲鳴の聞こえた先──矢の飛んでいった方向に駆け出したのだった。




「望美が腰抜けになったって?」
 将臣が室に入ると同時に、何かが彼に向けて飛来した。
 が、将臣は難なくそれを受けとめ、室の奥で茵の上にいる人物に文句を言った。
「おっ、と。……危ねーじゃねぇか、望美」
「腰抜けじゃないもん!腰抜けじゃないもん!腰抜けじゃないもんっ!!」
 上半身を起こして舞扇を投げた望美は、心底悔しそうにしながら室内犬のように喚いた。
 先程譲が的を外した矢は、さらにその奥へと飛んでゆき、少し離れた場所で同じく練習をしていた望美を掠めた。
 そのショックで望美は思わず腰を抜かしてしまい、蒼白になった譲に背負われて、つい先程宿に戻ってきたばかりだ。
 真っ青で戻ってきた譲とその背で涙を溜めている望美を見て、一時は騒然となった仲間たちだが、今は落ち着いている。落ち着いてないのは、どうやら当人たちだけのようだ。
 そんな望美に向けて、将臣は舞扇を弄びつつ、呆れのため息をついた。
「何そんなにヒスってんだよ。まだ立てないからってよ」
「でも腰抜けじゃないよっ! 腰が抜けたのと、腰抜けを一緒にしないで!!」
「喚くなよ。“が”と“た”を割愛しただけじゃねーか」
 片耳に指を突っ込みながら将臣は言うが、割愛しただけで意味がかなり違うだろうと譲は心の中で突っ込んだ。
 案の定望美も、全然違うと反論する。本当にきゃんきゃん喚く子犬のようだ。
 望美がここまでヒステリーを起こすのは珍しいことだ。しかもそれだけでなく、その表情の下に不安や悔しさを隠しているように見える。
 いったいそれは何なのか。
 望美の胸中に負の感情が巣食っているなら、できる限り取り除いてやりたいと譲は思う。
 が、いかんせん望美をこの状態にしたのは、自分が射ち損じた矢が原因だと思う。少なくともきっかけはそうだ。
 望美を宥めたり落ち着かせてやりたいと思っても、まだ、望美を射るところだったショックから覚めていない譲には、何と言葉をかければいいかわからない。
 戸惑っている譲をよそに、絶妙な間合いで声がかけられた。
「望美さん、少し落ち着いてください。それでは体が、いつまでたっても緊張を解けませんよ?」
「…………はい」
 騒ぐ望美の息継ぎの瞬間にやんわり割り込んだのは弁慶。穏やかな声音に望美はしゅんとして、何とか落ち着きを取り戻した。
 絶妙な間の計り方に、譲はほっと安心する。と同時に、少し恨めしい気がした。
「ふふっ、落ちついてくれたようですね。では、僕はそろそろ行きますね。何かあったら呼んでください」
「はい、ありがとうございました」
 ぺこりと頭を下げる望美と譲ににこりと笑いかけ、弁慶は将臣を促して室を出ていく。
 静けさを取り戻した室に、望美と譲、二人のため息が同時に響いた。
「…………」
「………………」
 思わず互いを振り返って、何となく気まずげに視線をそらす。
 しかし譲は言わなければならない事があると、重い口を開いた。
「あの……先輩?」
「な、なに?」
「すみませんでした!!」
「えっ!?」
 突然謝りだす譲に望美は目を丸くしたが、譲は続けた。
「俺の不注意で、先輩を危ない目に合わせるなんて……」
 気付かなかったとはいえ、神子を守るための八葉が、神子に向かって矢を射るなど。
 あまりの情けなさに、目眩さえ起こしそうだ。
 悔しさに拳を握り締めている譲に、しかし望美は首を振った。
「そんな。……悪いのは、私のほうだよきっと」
「えっ!?」
 望美の言葉に、今度は譲が驚かされた。
 今、彼女は何と言っただろう。どう考えても非があるのは自分なのに。
「何でですかっ。先輩は何も悪くないじゃないですか! 俺がもっと周囲に気を配っていれば、こんなことにはならなかった。それに矢を外したりしなければ……」
「ううん。悪いのは、やっぱり私。あのくらいの矢、落せるようになってないと」
 あの時の望美は、剣の稽古の最中だった。身体が鍛錬の為に緊張していたのにも関わらず、耳の傍を通り抜けるまで気づけなかった。しかもその後、腰を抜かしてしまうなんて……。
 自分の無力が悔しい。しかも先ほど偶然、自分にない瞬発力を持っている将臣を見てしまったからなおさらだ。
「せ、先輩……?」
 唇を噛む望美を、譲は唖然とした面持ちで見つめていた。
 望美が剣を持つようになったのは、この世界に召喚されてしまったからだ。それまでは剣など持った事のない普通の女子高生だった。
 その望美が飛来した矢を防げなかったからといって、一体誰が彼女を責めるだろう?
「悔しい……。私にもっと力があったら……」
 望美は呟くように、願いを唇にのせていた。
「──の為に、強くなるって決めたのに」
 それを聞いて、譲があぁと呟いた。
 そうだ。望美の視線は自分ではない男を追っている。その為に力を切望している。そしてその願いの先には自分はいない。
「私は、もっと頑張らなくちゃいけないのに……」
 そう言葉を紡いでいる事に、おそらく望美は気付いていないのだろう。譲は痛そうに眉をしかめた。
 望美の全ては、自分の方向を向いていない。それでも、譲は望美を守りたい。
「……先輩」
 この想いが受け入れられることがなくとも。
 呼びかけに顔を上げる望美に、譲は少しの寂しさを混ぜた笑顔で言った。
「俺も……頑張りますから。先輩を守れるように。この戦を終わらせられるように強くなります」
 真摯な言葉に望美も微笑む。
「うん、ありがとう!」
 くったくなく微笑む望美に、譲はただ笑顔を浮かべていることしかできなかった。

──貴女が好きです。
  その笑顔を守るために。
  貴女を取り巻く全てを守るために。
  想いが受け入れられなくとも。
  願いが叶わなくとも。
  俺は強くなります。貴女のために。



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