学園パロディ【天支】(【お題提供:Abandon】)
※全五種類

「ふ、チョーク投げはもう流行りませんよ?」(2008/4/2)
 
 言いつつ教卓に座ったレーヴァテインが特徴的な紫紺色の髪をさらりと揺らし小首を傾げる。だからって転寝してた生徒に魔法で紫色の電撃浴びせようとするのもどうよ。まぁその標的になった生徒である月留は華麗に避けたからいいけど。でもその避ける方法が背後に高くジャンプして空中で一回転その後今はいないダードの机に着地ってのもどうよ。どこの忍者だ。「ふあー、ビックリした☆」って、それで済ませられるお前が凄いよ。
 兎も角、そのあんまりな攻撃に即座に突っ込みを入れたのが夜独だ。「貴様いくら寝ていたからといって生徒に電撃浴びせるか?!」と、いうその真っ当な突っ込みに対する回答が…先のそれ、だ。 つかさ、レーヴァが教師って時点でありとあらゆる事が間違ってると思うんだけどな私。あれ?なんで誰も突っ込まないのこの非常事態認識してるのもしかして私だけ?

「ふざけるなどこをどう飛躍したらチョーク投げがいきなり電撃に変わるんだそもそも何故貴様がここにいる!?
「そ、そうよあんたちょっと心臓止まるとこだったじゃないのよ何でアンタがこんなところにいるのよ!!!」

 あ、よかったちゃんと皆違和感抱いててくれた。夜独とルーンの怒声に、しかしレーヴァは動じた様子など微塵も無くにっこりと笑顔で

「教育実習です。」
『嘘つけぇ!!!』

 さらりと言われた言葉にクラスの大半が同時に突っ込む。絶対コイツこの時間担当の数学教師をロッカーかどっかに突っ込んでいけしゃあしゃあと摩り替わったに違いない。大丈夫だろうか数学教師。無事ならいいが。
 教師の安否は気になるが、しかし今は私たち自身の安否の方が大事だ。レーヴァがまともに授業なんて…

「ハイ疑問も解消したところで、では皆さんP42を開いてくださーい」

 まともに授業なんて…あれ?
 頭を抱え打ちひしがれていた耳にそんなごく普通な台詞がレーヴァの声で聞こえて思わず顔を上げれば、教師用の教科書を開き黒板に今日習う予定だった公式名とその公式の見本をチョークで綴るレーヴァテインの姿。え、あれ、ちょっ

「ちょっと待ちなさいよ本当(マジ)であんたが授業進行するつもりなわけ!?!?

 私の、というか、クラスの大半の心の声を代弁したのはルーンだ。その顔は驚愕にか僅かに血の気が引いている。
 しかしそんな詰問に、キョトンと目を瞬き振り向いたレーヴァがコクンと首を傾げて言った。

「そうですが? 教育自習だと言いましたでしょう今。」
「聞いて無いわよ!!」
「はっはっは、嫌ですねェルーンさんってば耳でも詰まっていらっしゃるのですか?」
「あんた以外の教師からは何も聞いていないって言ってんのよこのアホ魔王!!!」

 バジジジッ と、ルーンの周囲に火花が散る。怒りで魔力が暴発しかけているらしい。まぁいつもの事だ。
 兎も角ルーンの言葉に対してレーヴァはニコリと笑って

「この公式はaとbが」
『誤魔化すなよ!!!』

 何普通に授業進めようとしてんのこの魔王! しかも何、説明しなかったってことはやっぱり数学教師今ピンチ!?無理矢理成り代わった!?
 本格的に数学教師の安否が気になりだしてきたんですが。ってかレーヴァが担当する授業なんて恐ろしすぎて受けたくねぇよ普通の授業されても普通じゃない授業されてもどっちにしろ心労とかで死ぬ!
 ええいこうなったら、


「先生私急用を思い出したので早退します★


 早口で言い放ち鞄を引っつかんで最先端距離で扉へ駆ける。既に教材は鞄の中だ。背後から「待て貴様一人で逃げる気かこのトンチキ女神ッ!」という夜独の怒声だか突っ込みが聞こえるが知らん!つか私この学校内にいる間創造主能力使えねぇんだよ!
 近い方の、つまり教卓に近い側の扉に4歩と半分でたどり着き、閉められたそれに手をかける。が、

 ガズッ
 鈍い音。硬い手ごたえに肘まで痛みが走る。えええ

「ちょ、はあ!?」
「ふふふ、逃がしませんよ」
「なんだお前その台詞どこの悪役だ…ここの悪役か。じゃなくて!あーもーなんなんだよ何したいんだお前は!!」

 どうやら魔力で扉はしっかり封じられているらしい。恐らくは窓とかも全部だ。だってさっきまで開いてた窓が全部閉まってるし。わしわしと頭を掻いて怒鳴った私の言葉に、レーヴァは聞き分けの悪い生徒の相手をする教師の如く困ったように溜息を吐き出して、

「ですから、先ほどから授業を始めると言っているではありませんか。」
「……まさか、本気で学校の授業やりたい、の?」
「しつこいですねぇ、そう言っているではありませんか。」
「はぁあ!?!?」

 レーヴァが、完全悪に最も近い魔王であるあのレーヴァが、何の因果も関係も無い相手を幸福の絶頂に登らせた後で絶望の底なし沼に突き落とす事を趣味にしてるあのレーヴァが、授業?教師!?

「ありえねー!!!」
「あっはっは怒りますよ?

 いつもと変わらぬ口調で言われ反射的に両手で口を押さえる。コイツがこの程度で怒るはず無いっていうかそもそもコイツが怒る様な事態めったに無いという事は熟知しているのだが、いかんせん笑顔で言われると迫力が増す。というか黒属性多いから笑顔で言われると口噤むのが習性になってんだよ既に私。
 
「それでは、皆さん納得してくださったところで授業を再開いたしますねー。創造主(ロード)も早く席についてください。ご心配なさらずとも授業がちゃんと終わればこの教室から出して差し上げますので。 ああ、窓は換気のために開けておきましょうか。先に言っておきますがわたしの魔力で結界が張られていますからどちらにせよ出入りはできませんよ。」

 長台詞が終わると同時にがらがらがらっと道路側の窓が全て開く。試しに窓側の席に座る夜独がそっと窓の外に手を伸ばそうとするのが見えたが、その手は途中で見えない壁にでも触れるように止まる。眉間に皺を寄せた夜独がそのまま肘までを使って押してみるが…無駄だったようだ。
 此方の分が悪すぎる。諦めて、私は自分の席に戻った。
 満足げに頷いたレーヴァが、チョークを持って黒板に書いた公式の下に線を引く。

「それでは、この公式ですが――」

 ……ちなみに、本当にまともな数学の授業だった事をここに記しておく。




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