好きなコほどいじめたくなるとは良く言うものだけれど。
好きな男(しかも20代後半という結構ないい年)をいじめたくなるこの気持ちは、いったい何なのだろう。

「ねぇ土方さん。どうしてだと思いやす?」
「総悟、それを俺に聞いて何か解決すると思うか?」
「ちっとも」
「だったらそんな恥ずかしい悩みは心の中で考えやがれ」

土方の部屋に、窓を突き破って飛び込んできたボール(硬球)を回収に来た沖田が土方に訊ねれば、案の定そんな返事が返ってくる。

「ひでぇや土方さん。俺ァこれでも真剣に悩んでるんですぜ」
「ほぉー、総悟もついに悩みなんていう高尚な感覚を持ち合わせるようになったのか」
「うるせェや」

ぷいっとそっぽを向いた沖田に、煮え繰りそうなはらわたを鎮めつつも土方はぽーんと沖田にボールを返す。

「拗ねたいのはこっちだ」
「今日のは大したことないじゃねィですか」
「そういう問題じゃねーだろ」

沖田は受け取ったボールを手の中で転がすとぼんやりと天井を見上げる。
そこには、一昨日自分がバズーカで撃ち抜いた大きな穴が開いていた。
沖田が土方のことを好きだ、と自覚してから土方へ対する悪戯(イジメとも言う)はどんどんエスカレートしていった。
一昨日は天井、今日は窓、昨日は畳だっけか。
土方の部屋がぼろぼろになってゆくにつれ、沖田の心に妙な満足感が生まれる。
大切な人のものを壊すということは、なんて崇高で高尚な行為なのだろう、と沖田は思う。
それを土方に言ったとて、理解してくれるはずがないのだろうけど。

「アンタを壊したいなんて思う俺は、馬鹿ですかねィ?」
「俺に訊くまでもなく、お前は馬鹿だよ」
「土方さんに言われたくねェや」
「お前はちったぁ素直になるってことを覚えられねーのか?」

ぐいっと土方が沖田の腕を引くと、すっぽりと沖田は土方の胸の中に収まった。

「何のつもりですかィ?」
「オイオイ、そりゃねーだろ」

うなじに触れる土方の大きな手に、沖田はきゅっと身体を縮ませる。
震える手を背中に回せば、土方は更に強く沖田を抱き締めた。
慣れない温もりに、心も震える。
いつもの調子が出せなくなる。
沖田は何も言うことが出来ずに、しばらく黙ったまま土方の腕の中に居た。

「良かったでさァ」
「何がだ」
「土方さんがドMだってことがわかって」
「は?」

ようやく出てきた声は、少々震えていたけれど。

「だって、俺について来れるだなんて相当なモンですぜ?」

どうか、こんなに動揺していること、気付かれていませんように。

「そうかもなァ」

拍子抜けするほど、どこか呑気な土方の言葉に、沖田は腕の中でくくく、と笑った。

「やっぱり、アンタも馬鹿でさァ」
「お前に言われたくねェよ」

そしてどうか、この時が永遠に続きますように、だなんて柄にもないようなことを考えて沖田は次の悪戯を考えていた。





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西川柚子




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