Ge@ssR2で『望』シリーズをやるなら……と考えた結果。最初は記憶を取り戻した後のルルーシュで考えていたのですが、それだと『望』のまんまで面白みがないなと思って記憶なしでやってみました。パパンに記憶改造された後で性別偽る必要ないから、普通に女として過ごしているルルーシュ……うん、にーさまに見つかるということ以外『望』との共通点がありません。もはや別物である。ちなみに続きません。ネタだから。ネタだから周囲が空気でも気にしちゃらめえええ!

 




『レテに置き忘れた絶望』


 

「も、だめだ……!」
 ぜえはあ、ぜえはあ。そんな呼吸音が聞こえてきてもおかしくない、むしろ聞こえてくるのが当然なほど疲弊した様子で、ルルーシュはがくりと床に沈みこんだ。一緒に踊っていたロロが慌てて支えてくれなければ、そのまま床に倒れていたかもしれない見事な疲弊っぷりだ。
「ね、姉さん、大丈夫!?」
「ぅ……はっ……」
 死ぬかもしれない。呼吸が乱れているせいで、最愛の弟が心配してくれているのにそれに対して返事をすることもできない中、ルルーシュは真面目にそう思った。ブレイクダンスやヒップホップならともかく、ワルツを踊っているだけで普通の人間が死ぬかという常識的な思考は、空のかなたまで吹っ飛んでいる。もしかしたら宇宙のかなたかもしれない。
 しかし、いくら体力皆無のルルーシュとて、一曲や二曲ワルツを踊るだけでここまで疲弊するようなことはない。問題は、会長が考案したマラソンダンスという大会にあった。



 体力が続く限りひたすら踊り続けるという、酔狂の極みとでも言わんばかりのダンスパーティーをミレイが企画として持ち出してきたのは、おおよそ二週間前のことである。
 己の体力のなさを良く知っているルルーシュにしてみれば、早々に脱落するのが分かりきっている大会だ。当然その時点で猛反対した。したのだが、『学園の中で一番偉いのは私!』と常々公言しているミレイがそんなものを聞くわけがなかった。かくしてアッシュフォード学園高等部生徒会長ミレイ・アッシュフォード主催、高等部のみならず中等部までをも巻き込んだマラソンダンス大会は決行されることとなった。
 流れる曲はゆったりとしたテンポのワルツ。衣装は体操服の上に上半身のみドレスやタキシードを着込み、その上にゼッケンを付けるという奇抜さ。原則としてペアの交換はなしで延々と踊り続けて、ペアの片方、あるいは両方が疲れて動けなくなればそこでリタイアだ。ちなみに衣装はハンドメイド。疲弊して動けなくなるまで踊り続けるという大会の趣旨なだけに、高いドレスやタキシードを着ていくのはためらわれる。かと言って体操服では味気がない。それなら自分で作ってしまえばいい。訳が分からないミレイの三段論法で決まったことだ。昨年にはハンドメイドドレスパーティーをやった経験があるため、一着にどれぐらい時間がかかるかは分かっている。時間もあまりないし今回はドレスがメインではないために、作るのは上半分だけということになったのだ。
 この大会が開かれると決まった日から、学園内はパートナー選びに大わらわ。不細工なわけではないのだが平凡としか言いようがないリヴァルを除いて、生徒会メンバーは皆平均以上の容姿をしている。ミレイは色気たっぷりでスタイル抜群の美女。シャーリーは美人というより愛嬌のある顔立ちをしているが、ぱっちりとした瞳は十分かわいらしく、胸のボリュームこそ負けていても全体的なスタイルの良さはミレイをもしのぐ。ルルーシュはアーモンド型の瞳のせいか、あるいはこれ以上を望みようがないほどに整った美貌がそうさせるのか、一見つんと冷たそうな印象を与える美少女だ。全体的に少女めいた印象のロロは、男性的な魅力からは程遠いが異性に警戒心を抱かせることがなく、同学年や年下からよりもどちらかといえば年上からの人気が高い。そんな四人は、その影響をもろに食らった。
 特に生徒会女子の中でも一番人気のルルーシュは、それはもう大変だった。何せ天使もかくやと言わんばかりの、けなしようがないレベルの美少女である。普段はしり込みしている男たちまでこれを機会に押しかけたものだから、たまったものではなかった。
 こういったイベントがあるとき、ルルーシュはいつも弟のロロと組んでいる。以前はそれが当たり前になっていたからここまで大騒動にならなかったのだが、ブラックリベリオンの後、生徒会メンバーを除いて学園の生徒たちは親の都合やら何やらで本国に帰ってしまい、今の生徒たちはそれと入れ替えに入ってきた者たちばかりだ。まだ編入してきて数ヶ月、以前なら通じていた当たり前はまだ定着していない。ペアはロロと組むと言って断っても聞かない相手が多くて、断るのに相当な苦労を要した。
 そんなこんなで迎えた大会当日。定番のかけ声『にゃーあ』を合図に大会は始まった。
 そう言えばこのかけ声は、スザクが転入してきたばかりのころに起こった騒動から定番化したものだ。ラウンズになって学園を辞めたスザクについていって、今はいない生徒会の飼い猫アーサーが、ルルーシュが秘密にしていたものを持ち出したのだ。あのときは大変だった。うっかり時計台から落ちそうになって……その記憶を思い出して唇だけでそっと苦笑したルルーシュは、ふと気づいた。そんなにも秘密にしたがっていたものとは、いったい何だっただろうか。誰にも見られてはいけないものだったということは覚えている。それなのに、何だったか思い出せない。
 記憶力には自信があったはずなのに、と顔を険しくさせていると、不思議そうな顔をしたロロが声をかけてくる。
「姉さん?」
「あ、ああ。どうした、ロロ?」
「どうしたじゃないよ。そんな怖い顔して……もしかして僕、ダンス下手だった?」
「そんなことはないよ」
 そう言って笑いかけても、ロロはなぜか探るような眼差しをやめようとしない。
「本当に?」
「本当だ。私は、お前にだけは嘘をつかない。ずっとそうだっただろう?」
 最近、この弟は妙に疑り深い。これが思春期というものだろうか。あるいは反抗期かもしれない。ルルーシュは少し困惑しながら、ロロの頬を指先でするりと撫でて微笑んだ。
「とても上手だ」
「……姉さんが教えてくれたからだよ」
 そこでようやく、ロロは照れたような笑みを浮かべる。
「そこの二人、姉弟でいちゃいちゃしなーい!動きが止まってるぞぉ!」
 姉弟二人でほのぼの笑いあっているところへ、一人だけ主催者特権として大会に参加せずにいたミレイがマイクで口を挟んでくる。
「ルルーシュ、真面目にやらなかったら後がひどいわよー!」
「分かりましたよ!……全く会長は……ロロ、次、右から入るがタイミングは分かるか?」
「多分だけど……」
 頼りなげに言ったロロだが、タイミングはばっちりだった。大会が決まってすぐ、ダンスに自信がないと言ったロロを、ルルーシュが毎日特訓していたのだから当然だ。運動神経は悪くないものの体力がないせいでスポーツ全般がまるで駄目なルルーシュだが、ダンスの腕前だけは元貴族のミレイにも引けを取らない。
 それからしばらくの間は、会場中をくるくると優雅なステップで移動していた姉弟二人だが、三十分もしないうちにルルーシュの限界が訪れた。そして冒頭に戻るわけである。
 ロロに心配をかけるのは不本意だが、そんなことも言っていられないぐらいルルーシュはグロッキーだった。貧血でも起こしたのか、目の前はちかちかするし息も苦しい。耳鳴りはするし、手足には全く力が入らなくて、ロロの支えがなければ座っていることもできないぐらいだ。普段運動しない人間が激しい運動をすると貧血を起こすことがあるが、ワルツを三十分踊る程度でそうなるなんて、いくらなんでも情けなさ過ぎる。ロロの前だからといって、意地を張って少し無理をしすぎた。ぐるぐるする思考の中で、ルルーシュは明日から体力づくりに励むことを決めた。
 そのとき、ひょいと誰かの腕に抱き上げられた。ロロではない。ルルーシュよりもほんの少しだが身長の低いロロでは、こんなふうに軽々と横抱きにすることはできない。
「大丈夫かい?」
「う……」
「無理はしない方がいい」
 気分の悪さのあまり閉じていた目を開こうとすると、大きな手がそっと目元を覆う。ひどく優しい手だった。
 誰だろう。どこかで聞き覚えがある声のような気がするのだが、貧血のせいで思考がまとまらない。目元を覆っている手を無理やりどけて、ルルーシュはゆっくりと目を開けた。
「ああ、こら……全く、私に反抗的なのは昔から変わらないね」
 周囲のざわめきが大きくなったような気がする。なぜだろう。
 相変わらず目の前はちかちかしていて視界は定まらないが、自分を抱き上げている人物が金糸のような髪をした男性だということぐらいは見て取れた。
 年齢から考えて、間違いなく生徒ではない。教師にも、こんなきれいな金髪の人はいなかったはずだ。ではどうしてこの人の声はルルーシュのことを知っているみたいに話すのだろうとぼんやり考えているうちに、だんだん症状が回復してきた。それにつれて視界も思考もクリアになってきて、自分を抱き上げている人の顔もはっきり見えてくる。
 見事なまでのブロンド、とがった顎、シャープに整った面立ち――直接見たことはないが、テレビの中では何度も見たことのある顔だ。名を、シュナイゼル・エル・ブリタニア。ブリタニアの帝国宰相、第二皇子ではあるが皇帝に次ぐ権力を持つ人だ。
「さ、さいしょうかっか!?」
 ルルーシュは目を白黒させて叫んだ。貧血の影響でろれつが回っていないのはご愛嬌だ。
「宰相閣下だなんて、他人行儀だね。昔のように義兄上とは呼んでくれないのかい、ルルーシュ?」
「は、あ、え?」
「ナナリーとは一緒に保護されなかったから、てっきり別のところにいるのかと思ったら、まさかアッシュフォードに戻っているとは……盲点だったよ。さあ、鬼ごっこはおしまいだ。ブリタニアに戻るね、ルルーシュ?」
「あ、あの……いったい何をおっしゃっているのでしょうか……?」
「この期に及んで白を切るつもりかい?」
「いえ、ですから私には何のことだかさっぱり分からないのですが……」
「困った子だね。父上の所業を恨みに思っているのかい?それとも、戻ればまた駒にされるとでも?心配することはないよ。今なら私の力で守ってあげられるからね」
「あの、人違いではないでしょうか……?」
 ルルーシュは心底困惑して、シュナイゼルを見上げた。そのまま数秒見つめあう。
「どう思う、カノン?」
 シュナイゼルは困ったような顔になって、優雅なまでの動作で振り向き、美しい女性に向かって尋ねた。
「そうですね……記憶喪失ではないでしょうか。ブラックリベリオンに巻き込まれて、頭を打たれたのではないでしょうか?」
 いや、その人は女性ではなかった。軍服の肩にかかる長い髪、ルージュを引いた唇、女言葉を話しても不自然ではない女性的な美貌ではあるが、喉仏は出ているし、体格は華奢でも男性のものだ。
「殿下に対するルルーシュ皇女殿下の態度とはとても思いませんもの」
「カノン」
「失礼いたしました」
 とがめるような声を上げたシュナイゼルに向かって、カノンは即座に頭を下げる。
 皇女だとか記憶喪失だとか、ルルーシュには全く身に覚えがないことである。話しかけられてもいないのに声をかけるのは不遜であると承知していれば、このまま黙っていれば妙なことになりそうなので、ルルーシュは気力を振り絞って口を開いた。
「あの!」
「うん、何かな?」
「私は記憶喪失になったことなどありません。私が皇女だなんて……どなたかとお間違えなのではないでしょうか?私の家族は弟のロロだけですし……」
「ロロ?」
「はい」
 ルルーシュがうなずくと、シュナイゼルはカノンと顔を見合わせた。
「どうやら記憶喪失ではなくて、記憶錯誤のようですわね」
 カノンは困ったような顔をして言った。
 記憶錯誤とは、事実とは違って変形された誤記憶、事実ではない偽記憶のことだ。記憶喪失とは違って、自分で意識することのない記憶障害である。単なる記憶の間違いという正常的な範囲のものから、病的な記憶錯誤まで広い分類がある。この場合は、明らかに後者を指している。
 顔には出さなかったけれど、ルルーシュは機嫌を損ねた。正常的範囲の記憶錯誤なら誰もが一度は経験したことはあるだろうが、病的な記憶錯誤というものはうつ病や分裂病、コルサコフ症候群や神経症が原因とされるものである。自分がそんなものにかかっているとされて気分の良い人間がいるわけがない。
「そんな顔をするものじゃないよ。九年前マリアンヌさまが殺されたことに始まり、君にはつらいことがありすぎた。皇族としての自分を捨て、一般市民として生きたいと願っても無理はないほどにね」
「ですが、私が記憶錯誤だというのなら、ロロの存在は何だというのですか?」
「それは分からない。だが、君は間違いなく私の義妹……私が君を間違えるはずがない」
 シュナイゼルはそう言ってルルーシュを腕から下ろすと、片方の手でまだ顔色の悪い彼女が倒れないように背を支えながら、もう一方でルルーシュの手を取り、その指先にそっと唇を落とした。
「九年前とは違う。私は宰相になったし、君ももう無力な子どもではない。だから戻っておいで、ルルーシュ。私がもっとも恐れ、もっとも愛した義妹よ」


ここで終わり!気が向けば続きを書くかもだけど、これは多分もう書かないと思います。拍手ありがとうございました。




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